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Chapter1-1 サンタ娘到来

 島津麗華のあの行為を目にして数日、期末テストを終えた今、ようやくほっとする休日がやって来た。曜日は水、聖蓮学園ならではの特別休日である。
 心を落ち着かせ臨んだテストの結果はまぁぼちぼちというところ。不安もなく自信もなくといった手ごたえである。そんな城嶋雄介はいつものように台所で夕飯の支度に取り掛かっていた。
 城嶋家の夕飯はイレギュラーがない限り彼が担っている。両親健在ではあるがいろいろと面倒な事になっているせいだ。家族構成は父、母、姉と彼の計四人なのだが母と姉とは血が繋がっていない。雄介を産んだ母親は彼が小さな頃に他界している。
 父の名は塵八。塵八は妻が死んでから二年余りで再婚した。現在の母親である良美である。良美もまた先に夫を失った身であり子が一人いた。
 義理の姉、栄子である。
 再婚してからというもの父親は事業が上手く軌道に乗り仕事三昧の日々が続いている。義母はというと自由気ままに人生を謳歌していた。義姉についても同じことが言えた。今日も朝から二人は出かけている。帰ってくるのはおそらく夜になる。城嶋家の休日はこのようになることが多く昼間は雄介が一人きりになるのが無条件に決まっていた。
 家事を雄介に押しつけた形となっているが雄介もまんざらではない。料理は好きだ。それに拒否した場合、あまり美味しいとはいえない義母の手料理を食べるはめになる。それは避けたかった。
 そんな家庭事情を知っている父親は口を挟まなかった。義母の言うことを何でもほいほいと聞く所があり血の繋がった息子にあまり目を向けていないのが理由だ。彼は仕事にのめり込むあまり家には寄りつかない。
 雄介からしてみれば、ああはなりたくないという男の見本程度でしかない。
 本日はカレー。考えたいことが多い場合、カレーが一番楽だ。野菜を切り下ごしらえができれば後は鍋にて火を通せば済むのだから。カレー粉を投入してもう充分煮込んだ。まだ火を付けているのは雄介が椅子に座って当面の問題をどうクリアするか考えているからだ。
 問題とは他でもない島津麗華のことだ。
 彼女に告白し上手くいけば一緒にパーティーへと考えていたがあまりにも馬鹿げた考えだったのだ。改めて考えてみれば彼女と付き合えるほど自分はできた人間ではない。学園での成績も良くはない。
 そして義姉を見ていればよく解る。
 義姉の栄子は生徒会書記を任命されている。麗華の情報は彼女とのわずかなやり取りで得たもの。彼女の成績は雄介の手に及ばないほどの上位でよく比べられる対象でもある。頭の良い栄子と出来の悪い雄介という構図はこれまで一度も変わらなかった。
 何度もその構図を塗り替えようと頑張ってみたがその度に栄子が上に行くので雄介は小さな頃に諦めている。そうしている間に二人の間にはかなり深い溝ができている。
 栄子は生徒会メンバーという間柄以上に島津麗華とは仲が良い。だが弟という立場を利用するのは難しい。
 つまり麗華に対する手はないに等しい。
 今また立ち上がりカレーの出来上がりをぼうっと見つめる。時間も充分である。蓋を閉めて火を消すとタイミングよく呼び鈴が鳴った。
 居留守でも使うかと放っておく。それどころではないのだ。今、雄介の大事は島津麗華のことだけだった。というのに呼び鈴はいつまで経っても鳴り続けた。
「ったくうるさいな。誰だよ」
 舌打ちしながら玄関へ向かう。
 城嶋家は二階建てで結構広い。周囲の家と比べると一際目立つ。一階にはリビングとキッチン、両親の寝室と使っていない和室とバスルームがある。二階には雄介と栄子の部屋がある。二階には他に空室が二つあるが長い間使われていない。
 玄関に近付くとどうやら叫んでいるらしい女性の声が聞こえてくる。
「城嶋さーん!」
 呼び声を聞いても雄介は歩行スピードを変えなかった。
「宅配便でーす! 城嶋さーん!」
「はいはい」
 現在、城嶋家には雄介しかいない。彼が出るしかないのは仕方ないが面倒だった。玄関を開けて名前を連呼する女性を見る。
「えっ」
 とても間抜けな声を出してしまった。もしも義母がいればまた自慢の娘と比べるだろう。だが、今、雄介の視線の先にいるその業者の女は誰でも同じ声を出させてしまう自信がある姿をしていた。
「宅配便にやって来たサンタでーす」
 きらりと光る金髪のショートヘアー。碧の瞳で胸の大きさはまあまあといったところ、服の下から主張してくる。そのふくらみは白と真紅の衣装で隠されていた。さらに首には鈴のついたチョーカーまでつけている。
 頭と胸と腰の三点だけを隠すその衣装は自らをサンタと名乗るには充分な説得力を持っている。彼女をサンタ以外の言葉で呼ぶ事は出来そうにない。
 しかし雄介が驚いたのはそれだけの事ではない。サンタ衣装からは見事にへそが見えているしスカートは超が付いてもいいほど短いものだ。今にもその下が見えそうだ。
 細く白い肌の脚についても驚きは隠せない。ストッキングらしき物もなく素足である。靴はごつい革のブーツを履いているがそれだけでどうにかなるほど今日の気温は高くない。天気予報では本日一桁台、こんな格好は仕事でもするはずはない。というのに彼女は震えるような格好で玄関先に立っていた。
「さ、サンタさん?」
「そっサンタよ、サンタ。それ以外に見える? 見えたらあんたそれこそ馬鹿よ」
 第一印象は五月蝿く口が悪い。
 不機嫌なのか腰に手を当てて言う。彼女の姿を再度注視するもののやはりサンタでしかない。肩から白く巨大な袋が垂れていた。サンタなら袋の中にプレゼントが入っているのだがどうにも怪しい。
 なによりサンタというのはこの世に存在しない想像上の生物であり子供を喜ばせるためのものでしかない。雄介は子供ではないし城嶋家には彼よりも年下の人間はいない。
「見えないけど、どこの宅配便業者ですか?」
 どこかの宅配業者がサンタのコスプレをして配達するサービスなんだろうというのが彼なりの答えだった。今は見えないがきっとすぐそこにトラックがありに持つが収められているのだ。
「だからサンタだっつってんだろ!」
「だったら……そうだ。『そり』は? サンタだっていうならどうやって来たんだよ」
「そり? いるか、そんなもん。いつの時代だよ」
 ……なんて口の悪いサンタだよ。子供相手だったら泣くぞ。
 などと思いつつもさっさと受け取ってしまいたいとも考える。仕方がなく彼女をサンタ(宅配業者の仮の姿)として認めることにした。
「それでサンタさん、荷物は」
「急ぐなよ。こっちにもいろいろと確認する事があるんだ。まずはあんたが城嶋雄介……ほんとに本人?」
「俺が城嶋雄介で間違いないよ」
「ふーん」
 じーっと見つめてくる。さっき雄介が彼女を見たときと何も変わらない。
「荷物は俺宛てなのか」
「城嶋雄介宛てになってる」
 ふと考えてみた。誰かから何か送られてくるなんてことはないはず。城嶋家宛てならあるだろうが個人宛てに荷物が送られてくるだろうか。特に通販で何かを購入した憶えもない。
「あんたのためにわざわざやって来たかと思うと泣けてくるわ。せめてもうちょっとランクの高いイケメンだったらよかったのにぃ」
 信じたようだが感想はそうらしい。肩をがっくりと落として溜め息をつく。宅配便の業者がこんな態度でいいのかと腹が立ちそうになるものの反論できない男がいた。確かに雄介の外見はそれほどよくはない。テレビドラマに出演する主役を張るような俳優に比べればかなり劣る。何もかもが平凡。その言葉がしっくりくるが何も本人を目の前に言わなくてもいいではないか。
「サンタが来るのはいつか知ってる?」
「クリスマス?」
「そう。でも今日はまだクリスマスじゃない。サンタが来るのはおかしくないってわかんないかな」
「解ってるよ、そんなこと。だから意味が解らないんじゃないか」
 力の抜けた肩をようやく元に戻すと気に入らないといった雰囲気はそのままにサンタが話をはじめる。
「あたしのおじいちゃん。つまり現役の、本物の、サンタクロースがあんただけ特別扱いしたわけよ。わかるサンタクロースの特別だよ! ありえないよマジで!」
「そのプレゼントが理由?」
「らしいわ。しかもよ! しかも、あたしに届けろってメッチャ煩くってさ。わかる? 今日彼氏とデートの約束してたのよ。まったくめんどくさいったらありゃしないわ!」
「じゃあさっさとそのプレゼントくれない? そしたらデートだって……」
 態度が悪いのは変わらない。だが彼女の容姿が可愛いのも変わらない。彼氏がいるのも頷ける。だったらこんな所で油を売ってないで行けばいいと心の中で呟く。
「無理よ。デートに間に合う距離じゃないもの」
「……そっか」
「そうよ。だから今日一日あたしは暇なの」
 他にすることはないらしい。とはいえ雄介になにかができるわけではない。
「はぁ……えっ」
「もう一回言うけど、暇なの!」
 だからなんだというのか。雄介は首を傾けるぐらいしかできなかった。するとサンタが吠えた。
「ああーもう! 暇だって言ってるの。ほんと鈍いわね、このプレゼント、私にも見せてくんないってことよ!」
「なんでだよ」
 一人、癇癪を起こすサンタだが雄介には事情が飲み込めてない。というかなぜそうなるのかさえ解らない。彼女はまだどこかの宅配業者の一従業員でしかなく休日出勤でイラついているというのが雄介の見解だった。だからプレゼント=荷物でしかない。
「あのねぇ、あたしが持ってきてやったのよ。いーじゃん、見るくらい」
「あ、あのさ」
「なによ」
「ホントにサンタだったらなにか見せてくれない?」
「あんた、まだあたしがサンタだって信じてなかったの?」
 こくりと頷く。
「はぁん……わかった」
 親指と人差し指で輪を作ると口に当てた。器用にも彼女はピーと高らかに鳴らした。まさかそれでトラックがやってくるはずもない。城嶋家の庭はそれほど広くはないが車一台を止められる土地はある。道路との間には塀が存在しているが車が通ればすぐに解る。だがいつまで経っても車は来なかった。
「どこ見てんのよ」
「えっ」
 またしても間抜けな声だった。サンタの方を見れば人差し指で上を指していた。空に何かあるらしい。見上げてみると自然と顎が置いてきぼりをくらう。二階にある自分の部屋と同じ位置になにやらバイクのようなものが浮いている。
 エンジン音はない。もちろん糸で吊るしているわけでもない。そんな時間はなかったはずだ。いや、時間があっても用意できる代物ではない。
「どうなってんの?」
「いまどき『そり』なんて使うわけないじゃん。あたしの足はこのバイクなの。格好いいっしょ。高かったんだから」
 浮かんでいたバイクが降りてくる。巨大な姿をしているがどこにも企業ロゴはない。あったとしても空中から降りてくるなどバイクを説明できない。呆気に取られて彼女への苛立たしさなどどうでもよくなった。
「もう何でもいいよ」
「じゃあプレゼントを見せてもらうわよ。お邪魔しまーす!」
「お、おい!」
 バイクは庭に着陸する。シートから察するに二人は余裕で乗れるみたいだがサンタはお構いなしに雄介の傍を通って屋内へと入る。玄関からは三方向に向かって伸びている。
「あんたの部屋どこ?」
「二階の奥だよ」
 二階へ続く階段はすぐ傍に見えている。
「じゃあホットコーヒーでも淹れて来てよ。もう寒くって寒くって」
 彼女はそう言って階段を登り始める。玄関先にあるバイクを見た後では彼女がサンタだと信じても良かったがクリスマス十日前にやってきて民家の庭にバイク浮かべ、さらに煙突ではなく玄関から入るサンタ娘を雄介は見上げることしかできなかった。
「やっぱ寒いんじゃん」
 ただ、小ぶりながらも階段を登る彼女のお尻は左右に揺れていた。そして超ミニのスカートは影を作ることもできずに白い下着を丸出しにしていた。彼女は気づいていないのか豪快に揺らしていた。雄介は彼女の尻を見上げて僅かばかりの幸福に感謝した。
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2012-12-01 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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