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Chapter1-2 特別なプレゼント

 キッチンへと向かう。完成したカレーの鍋を見て夕飯の仕度はできたのだから何かあっても問題はない。サンタ娘のほうはというと一向に降りてくる気配はない。部屋に入られても特に問題ないだろうと雄介は言われた通りに珈琲を淹れだした。沸騰したお湯を注ぎながら彼女の持ってきたプレゼントがなんなのか考える。
 やはり中身も特別なのだろうか。
 そしてあのサンタ娘である。彼女が本物なのは解ったが、だとすればそのプレゼントがどんなものか心躍るのも無理はなかった。言われたとおり律儀に珈琲を淹れて二階へと上がる。雄介の部屋は二階奥。階段を登りきってすぐの扉は義姉、栄子の部屋である。彼女は留守だったが雄介の足音は消える。栄子がやって来てすぐの頃、普段どおりに部屋の前を歩くと彼女が「集中できない」と短く言ったのが理由だ。それ以来、彼女の部屋の前を歩くときは自然と音を消している。
「おまたせ」
 隣りの部屋が彼の部屋。ドアを開くと窓際に設置している勉強机にサンタ娘が向かい合っていた。机の上にはノートパソコンが一台、彼女はやってきた雄介に目を向ける事無く画面を眺めていた。
 珈琲をテーブルに置くと彼女の見ている画面を思いやる。一体何を見ているのだろうか、いや、そもそもパソコンの電源はどうなっていたか……。そう考える雄介の目に画面が見えた。
「あんた、なかなか……普通の顔して、エグいな。そりゃ今の世の中ちょっとネットを介せばこういうのも手に入るだろうけどさ。彼女がいたらドン引きだろ、これ」
 サンタがじいっと見つめる画面にはやけに大きな瞳をした可愛らしい画があった。彼女もその人物が服を着ていてロマンチックな情景の中で微笑んでいれば画としてなんとも思わなかったのだろうが今、画面に向けられているのは軽蔑の眼差しだった。
「い、いや、普通だって」
 現実ではありえない胸の脹らみ方や腰のくびれに加え、男を欲情させるような赤い下着を纏っている。頬を高揚させ媚を売るような笑みで画面を見る人物へ語りかけている。
『さぁ私を好きにして』
 さらにマウスをカチッと鳴らすと画面が切り替わる。同じ人物らしき女の子が今度はお尻を突き出している画が表示された。腰を隠していた赤い下着はずらされて股間の部分にはモザイクが掛かっている。ふーん、と漏らしながらまたクリックするとまたしても彼女は姿を変えた。今度はアイマスクとギャグポールを噛まされ手足を縄で縛られている。
「普通? これが? 女の子縛っちゃってさ。しかも全部二次元の画じゃん。こんなの見てたらいつまで経ってもって……ってあれ? どうしたの」
 パソコンの中身というのはその人物の本性でもある。サンタ娘の言う事はあながち間違いではないが男なら当然の話でもある。それを勝手に見るだけならまだしもネタに話をされると持ち主である雄介が縮こまっていくのは明らかだった。
「な、なんか言えよ」
「え、いや、いきなり部屋に入られてプライベートを見られりゃ誰でも同じでしょ」
 サンタが気づいた時には遅かった。テーブルに置いた珈琲を見ると彼は自分の言った事を守ってくれたのだと知る。客人としての礼儀に欠けていた。
「あ、あぁ……それもそうか。あははっ、ごめんごめん、ゆるして」
 愛想笑いだった。サンタはパソコンから離れると雄介の傍に寄る。彼女の柔らかい胸の部分が肩に触れたが雄介はなんとも思えなかった。
「ぱ、パソコンの電源落すしもう見ない。それにこの事誰にも言わないから機嫌直して。あっ、珈琲淹れてくれたんだ。サンキュ……んん、美味しい!」
 まだ反応はしない。雄介の右腕に両腕を絡める。さすがに雄介も心臓が跳ね上がりそうになった。彼女の胸が押し付けられているのだから。
「ねっ。お願い!」
 両手をあわせて拝むように言った。
「もういいよ」
 と言うと玄関で見た強気で粗暴な彼女はいなかった。
「ホント、悪かったよ。もうしないし言わない」
「だからもういいって」
「あ、あたしさ。ちょっと緊張ってか興奮しちゃっててさ……なんか無いかなぁって思ってたら電源付いてたから見ちゃったんだよ」
「別に責めないよ。それに電源付けっぱなしにしてたんなら俺も悪いし」
 パソコンの電源を点けたのは雄介自身だった。カレー作りの前、パソコンはそのままにしたのを思い出していた。つまり彼女でなくとも誰かが触れれば自然と画面は黒から復活する。不注意だったのは自分だ。
「実はさ。本物のサンタ、おじいちゃんなんだけどあたしに仕事させてくれたの初めてなんだ」
「へえ」
 気のない返事をしたが内心、彼女のことを許してやる気にはなっていた。
「だから……彼氏との約束も、実はあたしのほうが破ったわけ。けっこうマジなんだよ、サンタやるってのは。そんな初めてのお客様にそんな顔されたらさ……やっぱ嫌じゃん。幸先悪いし」
 本心、なのだろう。気の強いところはその反動というところ。そう考えればまぁ納得できなくもない。
「だからもういいよ。それよりさ」
「うん。プレゼント見よっか」
 サンタ娘がテーブルに並んだまま白い袋に手を伸ばした。袋は彼女が肩から下げていたものだ。サンタにとってなくてはならない物。子供たちに配るプレゼントを包む物。なのに大きな袋には一つだけプレゼントが入っていた。唯一のお届け物だ。言葉どおりならさぞ丁寧に運んできたんだろう。取り出されたのは両手で持てば指が触れるほどの箱。包み紙で梱包されているので中身はわからなかった。
「なにこれ」
 首を傾げるサンタ娘。どうやら彼女は知らないらしい。
「爺ちゃんに秘匿義務って言われたからさ。開けていいかな?」
「どうぞ、ご自由に」
 べりべりと無理やりに紙を破って開けていくのは気持ちが良かった。箱が姿を現していくとなにやら携帯電話の写真が見えた。さらに箱を開封すると中身の確認へと移った。
「これケータイかなぁ。こっちは説明書、か」
 箱にあったとおり携帯電話が一台封入されている。サンタ娘はさっそくとばかりに中身をあさると説明書をテーブルに放り出し携帯電話を片手に取った。
「おい、説明書読まなくてもいいのかよ」
「そんなの知らないわよ。あんたが読めば」
 そういうタイプかと一人納得して雄介は説明書を手にした。
 サンタ娘が電話の電源を入れると電子音が鳴った。雄介は放り出された説明書を読み始める。
「ええっとなになに……この携帯電話は特殊な装置が備わっております」
「特殊な装置ねぇ……どうやんのさ」
「その特殊機能はカメラモードに移行する事で起動します」
「カメラモードね」
「まず対象をカメラに映すのですが決して自分を映さないで下さい」
 淡々と読み上げる雄介の隣りでカシャッと音が跳ねた。
「えっ……」
 隣りではサンタ娘が携帯電話のレンズ部分をやや斜め上から傾けていた。空いた左手は顔の前でピースサインをつけている。顔も満面の笑顔で撮っていたがなにかおかしい。もう写真は撮り終ったというのに動こうとしない。
「おい、サンタさん? おーい」
 答えが返ってこないどころか彼女は身体の部分を何一つ動かさない。肩を揺らしてみたが効果がない。レンズを見たまま彼女は固まっていた。
「どうなってんの。ええっと、この携帯電話の特殊機能はカメラで映した人物を催眠状態へ強制的に移行するものです……まず相手をカメラで写し催眠状態にする……次に実行させたい事や暗示を告げる……すると相手はその言葉どおりになります。マジか……」
 携帯電話の特殊能力に関する事項は要約するとそれだけしかない。実にシンプルな作りなのだが誰がどうやって作ったのかは記載されていなかった。
「サンタさん、名前は?」
 呆然となっている彼女に試しに聞いてみる。
「……ミレイ、です……」
 言葉少なく答える彼女はまるで人形。目を見ると正常ではないのも頷ける。彼女の目は光が消え失せたように虚ろだった。
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tag : 令嬢催眠崩し 小説

2012-12-01 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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之ち

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之ち(ユキチ)

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