FC2ブログ

Chapter2-1 義理の姉 城嶋栄子

 サンタ娘ことミレイは文字通り空を飛ぶ。あの空から降りてきたバイクはエンジンがつくと浮かび上がり彼女の意思によって操縦されているように重力を無視して動く。ハンドルを切るとそのままどこかへと行ってしまう。行き先はどこだったか雄介は頭に思い描く。彼女は会話の中で北極のほうとだけ言っていた。
 まだ夜が明けきっていない空を眺めて今日の出来事を思い返す。思いがけない一日だった。まさかこんな形で童貞を卒業できるとは思わなかった。
 城嶋雄介にとって夢のような一日だったのはいうまでもない。目蓋を閉じて思い返すなかハッと開眼した。踵を返して走り出す。部屋に戻るとあの携帯電話を手に取った。
「こいつは……最高の武器になる……」
 思いが口から出ていた。ミレイの持ってきた特別なクリスマスプレゼントである。写真を撮った相手の意識を催眠状態にし、自分の思い通りにすることができるアイテム。手に収まるほどの小さな道具は雄介にとって輝いて見えた。
「そうだ、説明書……」
 まだ獣じみた性臭の抜けきらない部屋のなかで同封されていた説明書を読み始める。最高の道具の性能はすでに証明済みだがこのまま使いつづけるには無謀だ。そんな馬鹿な事をするほど雄介はのぼせていない。
 さっそくページをめくり機能の説明に注視する。
 基本性能はミレイに試したもの、つまり写真を撮り暗示をかけるというものだ。説明書にはかけた暗示はなにがなんでも達成するとある。たとえば『誰かのことが好き』といえばそのとおりに好きになってしまうし『本人の意識はそのままに』と付け足せばそのとおりになる。さらに言えば『誰か特定の人物を殺せ』と指示すればそのとおりになるとある。
 注意もある。『空を飛べ』や一分間以上浮いて止まれ』などという物理的にできないことが挙げられている。もしもそういった暗示をかけた場合、実行しようとして止まらなくなる。
 また催眠状態にする方法はひとつではない。
 一度でも催眠状態にする事ができた相手は電話をかければ自ずと催眠状態になるとある。つまり今、ミレイに電話をすると彼女は知らない間に催眠状態となる。
 最後の注意事項。催眠状態は誰の言葉でも効いてしまうとある。はじめて写真を撮ったときのこと、ミレイが自分で写真を撮ったときがそうだ。彼女は自分で写真を撮って催眠状態になった。そして暗示をかけたのは雄介だった。彼女はそれでもきちんと暗示に掛かった。
 説明書には暗示は人間の言葉として認識できればどんなものでも掛かってしまうとある。つまりテレビやラジオの音でも暗示に掛かってしまう可能性はあるのだ。
「これは、注意しなきゃな」
 最後に携帯電話の電波について記載されていた。電波は世界全体で途切れる事はないとある。この携帯電話を作った会社は名前すらなかった。
 説明書はこれで終わりだった。ほかに説明らしきものはない。箱の中身もチェックしたが他には充電器ぐらいしかない。また壊れた場合に対しての記載がないのは保証が効かないという表れなのだと雄介は思うことにして眠りについた。

 目を醒ましたのは夜だった。明け方より眠りについて一日を睡眠につかっていた。その間、誰も何も言わなかったがこれが城嶋家というものだ。父は自分の仕事だけを念頭に入れている人物だ。仕事へ出かけるのも朝食後すぐである。雄介にかける声も持ち合わせていない。まるで仕事に憑かれている。
 母親はというとそれこそ自分の時間を大切にしている。リビングでテレビを見ながら近所の奥さんと電話で話すばかり。雄介が休んでも何も言わないのがもうお約束になっている。ただ、昼食はいるのかどうかぐらいは聞いてくるが、やはりその程度だ。
 だから今日も同じだった。
 義姉の栄子も特に言葉を交わさない。ひとり、部屋で時間が過ぎていくのを感じていた。手にした例の携帯電話に知人のメモリーを移植してからベッドから出た。
 股間の一物はあれだけ出したというのにすでにパンパンに膨らんでいた。どうやら精力の回復はできたらしい。あとは腹のなかになにか詰めたいと人間の欲求を奏でた。
 まだカレーが残っているだろうか、とキッチンへ行ったが鍋は空だった。かなりの量を作っていたはずだがないものは仕方がない。冷蔵庫の中にはすぐ食べられるものはなく、買い置きしてあるカップ麺をひとつ取り出した。
 湯が沸くまで少し時間がある。携帯電話を取り出して広げる。どこの回線か判らないがどうやらインターネットに接続できるみたいでさっそく繋いだ。特に調べるものはないがいつも覗いている掲示板へとすぐにアクセスした。
 掲示板は多くの人がいるわけではない小さく特殊なコミュニティである。特殊というのは集まる人間の性癖によるもの。雄介がいろいろと知識を豊富にすることができた場所でもある。今夜も数人の人間が同時に観覧していた。
 ひとつに『威張った女を去勢する方法』なるスレッドがある。内容は名前そのものでプライドの高そうな女や自分のほうが立場が上だと思っている女を犯す妄想が書き込まれている。雄介はこういった内容を見るとぞくぞくしてくる。そういう性癖があるのだろう。
 やかんが音を鳴らした。お湯が沸いたようだ。そのままカップ麺に注いでまた待つ。
 掲示板のほうでは『金持ちのご息女ってのはなんであんなに上から目線なのか』という一言で議論が始まっていた。返信は下種なものが多い。
『そりゃオトコ知らないからだろ。基本バカだからな』
『一回輪姦されりゃいいんじゃね』
『輪姦だったらホームレスのなかに放り込もうぜ次の日は土下座で謝る』
 次々と書き込まれている。今夜は皆、快調のようだ。
 ……にしても金持ちかまるで……。
 そう、まるで島津麗華のよう。プライドが高く、他人を見下したような本性を持った女にぴったり当てはまる。
 なぜあの女に惹かれたのか自然と判る。あの生意気な顔をぐちゃぐちゃにしたいのだ。
 そして、その方法は手の中にある。
 出来上がったカップ麺を啜り始めて数秒。身体が暖まってくると背後に人の気配を感じた。一階では両親が眠っている。どっちかが起きてきたのかと思って振り返った。
 するとそこにはパジャマ姿の義姉、栄子が立っていた。もう眠っている時間なのに彼女はそこにいて冷蔵庫のほうへと向かって歩く。
 特に話し掛けることはなかった。しばらく見ていることにした。無表情のまま冷蔵庫を開くと中の電気が彼女を照らした。いつもは栄子から目を背ける雄介だが今夜は違った。
 彼女の胸の大きさをじっと見つめる。膨らみはお世辞にも大きいとは言えないが高い背丈と細い腰を見ているとまるでモデルのように思えてくる。
 見ていると冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出していた。そして雄介の座るテーブルへと近付いてくる。喉が渇いただけではないらしい。どういうわけか向かい合うように彼女は座った。
 カップのなかに麺がなくなると立ち上がろうとした。
「……彼女、いるの?」
 静かな声だった。雄介は自分以外に誰かいないか見渡したがいるわけはない。この場所には栄子と自分以外に人はいない。つまり彼女は自分に対して言ったのだ。
「な、なんで?」
 こうやって話をするのは久しぶりだ。家の用事を伝えるぐらいなもので普通の話をしたことは一緒に住んで数年経った今もほとんどない。だからひどく緊張してしまった。少し挙動のぶれた声を出していたかもしれない。
「えと……昨日ね、女の子の声がしてたから……」
 栄子は手にしているミネラルウォーターに目を向けている。俯きがちになって頬が赤くなっていた。つまり彼女は聴いたのだ。あの一時を。
 記憶を遡ると自分の犯した過ちに気づく。彼女の部屋は隣りでミレイとは一日中セックスに没頭していたのだ。初めてオナニーをした時のようだった。壁の厚みはそれほどでもない。叫べば聴こえるのも頷ける。
「あ、ああ……あれね……あれか……」
 聴かれていたと知ると頭が沸騰しそうになる。あまりにひどい結果だった。もっと気を配るべきだった。しかし栄子のほうは顔を赤くしながらも落ち着いているようで事を荒立てる気はないらしい。
「うん。べつにね、お姉ちゃん女の子と付き合うなって言ってるんじゃなくて、ね。ただ……」
 彼女もまたどうにかして落ち着こうとしているのだ。
「ただ?」
「雄介も男の子なんだなぁって思ったらちょっと……」
 手にしている携帯電話をいつの間にか見つめていた。彼女の顔は見ていなかった。
「どうしたの?」
「これ見て」
 気づけば電話のカメラモードを起動していた。
「えっ……」
 なにも知らずに光に当てられる。
 禍々しい黒い欲望が彼女に向けられた瞬間でもある。彼女の瞳から生気が消える。ミネラルウォーターを持っていた手に力がなくなり床に落ちた。ペットボトルが跳ねるものの蓋は閉じられていたので床は無事だった。
 ……気をつけないといけないな。
 催眠状態になると虚脱する。説明書には電話でも催眠状態になるとある。これは気をつける必要があるようだ。気を落ち着けて口を開く。
「栄子姉さんに質問です。なぜそんな事を聞くんですか、理由を言ってください」
「……昨日の夜。雄介の部屋からセックスしている声が聞こえてきました。姉として知っておく必要があると思ったからです」
 彼女は臆する事無く答えている。しかしそれだけだろうか。雄介は満足しなかった。
「それだけですか? すべて答えてください。隠してはいけません」
「……二人の声があまりにも聞こえてくるのでしてしまいました……」
 やはりなにかある。
「なにをしたんですか?」
「……自慰です」
 息を飲む。彼女が言った言葉は隠して当然のこと。他人に言うはずのない言葉。だが後悔はしない。それどころか彼女への黒い想いにとり憑かれる。
「自慰ですか。それはオナニーですね」
「……はい」
「なぜしたのですか? いや、なしだ。今から姉さんに暗示をかけます。弟になにか聞かれた場合は嘘をついてはいけません」
「……はい。嘘はつきません」
 質問には答えなかった。雄介はこの状態で話をするつもりは無かった。もっと彼女の表情を見たいのだ。
「本心を隠してもいけません。全部さらけ出してください。素直に答えなければなりません」
「……はい」
 写真を撮ると再び彼女の瞳に光が灯った。床に落ちていたペットボトルを拾った。彼女は不思議そうに見ていたが不思議に思わなかった。
「聞きたいんだけど栄子姉さんさ、俺に彼女がいたとしてどうするの?」
「どうって?」
「俺がまた、女を連れてきてセックスしたらその声を聞いてオナニーするの?」
 勇気がいったが言ってみると心が躍る返事がくる。
「するわ。すると思う。昨夜は二回したもの。でもね、そういうことだけじゃなくてね」
 ……栄子姉さんが二回もした、か。想像するだけでも勃起するな。
 学園の女生徒の中で最も人気が高いのは言わずとして島津麗華である。男女分け隔てなく人気がある。雄介も同じで否定はしない。しかし眼前の栄子もまた男子から人気が高い人物だ。
 肩までの黒髪と少し釣りあがった猫のような瞳と背の高いその姿は一部の男子と女子には輝いて見える。生徒会の書記を務める立場も加わって麗華と並んでいる事が多い。女性らしさを麗華が冠するなら栄子は男役といった所。その彼女は女子の中では特に人気が高い。
 改めて彼女の容姿を見る。綺麗な顔が真っ赤に染まっていた。
 そこで標的である島津麗華を完全な形で堕とす方法が閃いた。
「姉さんが心配することなんてないよ、あの子は彼女じゃないから」
「そうなんだ……ええっ! 彼女じゃないのに、したの」
 さすがに驚いて口をあけた。
「それより聞かせてよ、どんな風にオナニーしてたのか」
「オナニーの仕方?」
 今の彼女は催眠状態の暗示が有効になっている。
 聞かれたことには素直に答えなければならない。
「そうだよ。俺は姉さんの聞きたいことに答えたんだよ。だから今度は俺の番、俺たちのセックスしてる声を聴いて姉さんがどんなオナニーをしたのか是非、実践してみせて」
 理解に数秒を要した。
「い、いいよ。お姉ちゃんがオナニーするところ見せてあげる」
 なにも問題はない。彼女は事故解決を終えて立ち上がった。階段のほうへと歩いていく。雄介はカップ麺を流し台に放り込むと舌なめずりしながら追いかけた。
関連記事

tag : 令嬢催眠崩し 小説

2012-12-02 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
ジャンル問わず面白ければ好き。
大阪在住・12/28生
相互リンク募集中です

カウンター

おすすめ





予定