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Chapter2-5 女王初催眠

 体育館から出ると二人は一度、分かれて教室へと戻る。聖蓮学園は昼食を学生の自由にさせている。二人はこれまでと同じように弁当を持ちよって上で屋上にて再会した。学園の屋上は生徒にも公開されている。背の高いフェンスで囲まれて、色とりどりの花が植えられた花壇が広がる場所で姉弟は昼食となった。
 二人が持っている弁当は中身が同じだ。栄子に合わせて作られたもので雄介にしてみれば少々物足りなかった。だがこれは今の二人にとって大きな意味ではない。手の内で並んでいる弁当のおかずにかかっている『特殊なソース』こそが閃きの形。
 本日のおかずは鶏のから揚げ、卵焼き、ウィンナーと冷えても味の劣化を最小限に抑えるものばかりだ。しかしそのまま食べるには少し濃さが足りない。そこでソースか醤油かとなるわけだが栄子の側には白くどろりとしたソースがかかっていた。雄介の側には何もかかっていなかった。
「どう、姉さん。『俺』の特別ソースは」
 本日、弁当の製作は義母であった。その弁当のなか、それも栄子の側だけにかかった特別ソースは雄介が今さっき作り上げたものである。
 ウィンナーを一本フォークでさして口に運ぶ。それこそ白い特別ソースをたっぷり付けて。
「とっても美味しいわ。きっと雄介の愛が込められてるからよ」
 臆する事無く言った。
 現在、栄子の五感はすべてずれている。もちろん、ずれを生じさせたのは雄介だ。屋上で合流した際に彼女の五感をほんの少し変化させ、ある物を美味しいと感じさせるように細工した。
 そのある物とは彼の体液。
 白い特別ソースの正体はさっき彼が出したばかりの精液。どろりとした液体は粘液のように口内の唾液と混ざり合いウインナ―とともに喉へ流れて腹に落ちる。しかも彼女はそのソースを美味しいと口内で味わって食べている。
「そうかそうか、愛、か……確かに入ってるよ。姉さんへの愛が」
「うん、だからもっと食べるね」
 自分の異常を異常と取れないまま手が進む。
 一方で雄介は普通の弁当を食べ腹を満たしていく。ぐちゃぐちゃと音を鳴らして聴こえるようにして食べる。その光景は退屈させなかった。
 自分の排泄した白濁液を食べる女を見る。優越感に浸りながら、長考に耽る。無論、栄子のことではない。腰のポケットに入っている携帯電話の矛先は一つ。同じ、学園内にいる女王にこそ向けるべきものだ。
 絶対的な力を持った今、彼女を犯すことなど造作もない。
 どうにかして……そう、栄子を使えばいい。彼女は麗華と付き合っていると交際宣言までしている。栄子が麗華を呼び出し場を作ればいい。その場で催眠状態にすれば何も畏れる事はない。犯し嬲りを繰り返せばいい。何をしようとも彼女の口を塞げばいいのだから。
 長考のなか、想像の中で島津麗華を犯してみたがどうにも負に落ちない。
 島津麗華をただ犯すなどというのは愚でしかない。それでは雄介自身の欲望を満足させるには遠い。なにか、決定的一手を欲しかった。
「ようやく見つけましたわよ」
 長考から意識が引き戻された。
 たった一言にて現実に戻る。
 声は寒空のなかで流麗に響き、わずかな疲労をともなっていた。
 学園屋上に新たな人物が立っている。名を島津麗華。黒いストレートの髪が風に煽られて揺れていた。これほどまでに近付くのは初めてのことだ。
「栄子さん……そちらは……」
「麗華、あっごめんなさい。こっちは私の弟の――」
「雄介です。城嶋雄介」
 呆気に取られる寸前で声を出す。栄子との関係を持ってしても彼女とはこれまで一言も言葉を交わしたことがない。想い人が突然目の前に現れたことに心臓はどくんと高鳴った。
 ……さすが姉さんだ、すぐに自分のほうから寄ってくるとはな。
「存じております。フフッ、栄子からいろいろと窺っていますわ。大層な料理の腕前だとか」
「そんなことはありませんよ。弁当や夕食を作れる程度です。麗華さんが口にするほどのものでは……」
「いいえ、私は女だというのに料理ができませんので、なにかを作れるということ自体が素晴らしいと思うのです」
 雄介が姉を見た。彼女が普段自分をどう見ているのか不明ではあったが悪い印象ではないようだった。
「ありがとうございます、島津先輩」
「他人行儀はよして、栄子の弟なのだから麗華、と呼んでもいいのよ」
 見れば栄子も肯いている。学園の女王との仲はどうやら絶大のようだ。
「ねえ麗華、一口どう?」
 突然の来客に弁当のなかで残っていた卵焼きをフォークで刺して持ち上げた。あの、特別ソースをべったりとつけた一つだった。
「せっかくです、戴きましょう」
 雄介は周囲を見渡し確認した。幸い屋上には三人しかいない。麗華にはまだ催眠をかけていない。特別ソースに気づく事があれば怒り狂うこととなるだろう。栄子の異変に気づき……声を荒げ……その先はどうなるかある程度の予想がつく。
 しかし……彼女の反応は違った。
 いつでも催眠状態にできるように手元で携帯電話を操作していた緊張は簡単に崩れる。
 栄子の持つフォークの先にあった卵焼きが口に入る。一回一回丹念に噛み味を堪能する。表情を読もうとしたが掴めなかった。
「どうかしら、私は美味しいと思うんだけど」
「え、ええ……そうね。この独特の味がするソースが、ええ、美味しいわ」
 歯切れは悪い。言葉をどう表現したらいいか判らず選んでいるという具合。精液を口に含んだ感想がそれだった。
 怒るはずはない。その薄い桃色の口に含んだものの正体を知る由もないのだから。
 美味しいと自分に言っているようだが栄子は微笑んでいた。
 握った携帯電話を放す。
「そうでしょ、麗華。私の自慢の弟が作ったんだから」
「自慢の……弟……」
 はじめて表情に陰りをみせた。
「ねぇ、そういえば捜してたみたいだけどなにかあった?」
 気づいていないのか栄子は小首を傾げて聞く。
「え、ええ。ちょっと問題が起きましてね。まぁ……昼食中なら構いませんわ。放課後に生徒会室で……会いましょう」
「わかったわ」
 栄子の返事に背を向ける。その最後の一瞬、雄介は見た。
「それでは昼食中、失礼したわ」
 手を振って歩き出す彼女を追う。この機会をただの挨拶で終わらせるわけにはいかない。ここには三人しかいない。ならば……行なうはたった一つの行動。
「すいません、島津先輩、よろしいでしょうか」
 立ち去ろうとした女王に声をかける。
「なにかしら」
 彼女は栄子の弟に声をかけられ足を止めただけだ。ほんの僅かな時間でこれまで歩んできた時間をすべて捨ててしまう。いやこれまでだけではない。過去、現在、未来、すべてが彼女の意思を離れていく。
 催眠携帯電話の効果が発動された。
 女王はただの人間になり、立ち尽くした。
「改めまして島津麗華さん。貴女の彼女、城嶋栄子の義弟……城嶋雄介です」
「……よろしく……島津麗華、よ」
 ……なるほど、姉さんとの間柄は否定しないのか。
 背後で一人、弁当を食べている栄子に目を向けたが反応はない。気を取り直して口を開く。
「麗華は俺のことをどう思ってる?」
「……栄子の義弟……取るに足らない存在……」
 歯を噛みしめる。解ってはいた。彼女が雄介ごときに目を向けるはずはない。しかし聞いておく必要があった。学園の女王たる彼女を自分の手で完膚なきまでに屈服させるために。
「そうですか……いいでしょう。その評価はそのままでかまいません。ですがひとつ、先ほど食べた卵焼きについていたソースはご存知ですか?」
「……いいえ。わかりません。はじめて口にした味です」
「本当はどんな風に思った?」
「……正直、美味しくありませんでした。匂いがきつくてむせ返りそうになりましたし、できれば吐いてしまいたかったわ」
「だろうな。でも駄目だ。吐いちゃだめだ、絶対に。で、なんですが、あのソースの正体です……精液、いわゆるザーメンだ。このことは知ってるか?」
「……精液は知っています。ザーメン、という言葉も知っております」
「そっちの知識もあるようでなにより。では麗華、貴女はこれから白い液体や飲み物はすべてあの味と匂いを感じる。そしてそれ自体を好きだと思う。いいか、味と匂いは変わらないんだ」
「……すべてあの匂いと味は変わらない……でも好き……」
「そうだ」
 これで一つ、目的は達したがそれは段取りの一つであり単純な悪戯である。
「んじゃさっそくだけどこれから麗華には仕事をしてもらう。そうだな……放送で呼べ。生徒会副会長の金城武、会計の金城佐奈を生徒会室に呼べ。理由は適当でいい」
「……二人を呼ぶ……わかりましたわ」
「そのあと、放送室に俺から電話が掛かるまでいろ」
「……はい」
 手を伸ばす。麗華の身体に触れる。自身を損失している今は胸を揉もうが尻を触ろうがやりたいほうだいだ。彼女は抵抗などできないのだから。なのに雄介の手は彼女の胸にも尻にも触れなかった。スカートのポケットに手を差込み携帯電話を取り出す。番号を盗み再びしまった。あとはハンカチを取り上げて催眠状態を解く。
「いえ、これ落としましたよ」
 笑顔でハンカチを差し出す。指先が触れた瞬間、彼女と本当に触れたのだと感じる。
「私としたことが。ありがとう、雄介さん。お姉さんをよろしくね」
「はい」
 心臓の高鳴り、真っ赤になっている頬、触れた指先の名残り、すべてを束ねて人はこういう『恋』だと。

 数分後、学園に校内放送が響いた。
 聖蓮学園生徒会に在籍する『金城武』『金城佐奈』を呼び出す内容だ。二人はこの時間、使われることのない生徒会室へ呼び出された。
 そこで何があったのか知る者はいない。
 続いて島津麗華の携帯電話が鳴り短い話しの後、もう一人、名前が読み上げられた。
「生徒会顧問、田所浩二教諭、生徒会室へお越しください」
 麗華の呼び出しは教師であっても逆らえない。そんなことができる人物が学園にいるとするならば彼女の祖父であり学園の理事長ただ一人。
 田所教諭はすでに昼食を終えていた。呼び出しに面倒だ、と思いながらも歩き出し生徒会室へと向かう。
 先に着いているはずの金城武、金城佐奈の両名は確かにいた。しかし呼び出したはずの島津麗華の姿はなかった。三人は確かに誰かと会話したしたような感覚を持っていたが記憶が曖昧だった。
 昼休みの終了を告げる音が学園に響くとそんな些細な事に気を回してなどいられない。三人はそれぞれの持ち場へと戻っていく。

 掛けられた暗示に誰一人として気づかないまま。
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2012-12-02 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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プロフィール

之ち

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