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Chapter3-5 女王の気質

 暖房の効いた家の中で島津麗華はリビングで両親とともに客を待っていた。黄金のシャンデリアが天井にぶら下がり、高価な絵画が壁を制圧する。腰をおろしているソファーは真紅に輝く。何もかもが一流で出来上がった空間でメイド達を従えている。
 学園の黒い制服とは違い真白なワンピースに身を包み心を躍らせている。いつもの学園で見せる女王然とした振る舞いはなく友達が来るのを今か今かと待つ少女のよう。
「少しは落ち着きなさい、麗華。島津の女がそう心の内を見せるものではなくてよ。冷静になりなさい」
 スカートの端をひらひらと揺らしていた麗華が言われてハッとした。彼女に声をかけたのは母親の沙織。優雅に客の到来を待つ母は麗華の手本でもある。
「す、すいません。私ったら……」
 さすがの女王も母親には頭が上がらない。
「いいじゃないか。麗華が学園の友人を呼ぶのは珍しいんだから」
 母を宥めるのは父、武夫。嶋津グループの全権力を持つ男。父親でもある前グループの総帥、島津直治より家督を譲り受けた人物でもある。
「今日来るという友人……何といったかな」
「城嶋栄子さんと弟の雄介さんよ、あなた」
「城嶋……ああ、あの城嶋君の」
「知っておられるのですかお父様」
「うん。もう数年になるかな……私のほうでもよく噂を聞くよ。ということは彼の子供か、これは面白そうだな。どんな人物なんだ、麗華」
 娘は父親の意外な反応に驚いていた。父、島津武夫が他人を褒める事はない。同業者であれば仇のように詰り、それ以外であれば商談相手として見るのが大半だ。彼の仕事中毒とも言える性格がそうさせるのだろうが今日はどうやら違うよう。
 麗華は父親以上に機嫌が良くなる。一年のうちに数日しかいない今日、栄子を紹介するにはもっとも良い日になると心の内で笑顔になる。だからなのか声が弾んでいた。
「栄子は学園で私と一緒に生徒会を盛り上げてくれてるのよ。性格もいいし、よく尽くしてくれてる。以前、来られた時はお母様が会っておられます……憶えていただけてますか?」
「ええ、当然よ。忘れるほうが無理でしょ」
「というと」
「だって麗華ったら学園での話は栄子さんとなにをした……栄子さんがこんな話をしたとばかりなんですもの」
「親友、というやつか麗華」
 そうなのだろう。麗華にとってかけがえのない存在だ。普通の友人というものを作れる立場ではない彼女にとって唯一一人の親友。
「親友……はい」
 父は「ほう」とだけ言って笑って肯くと「ではその弟は」と言った。
「私は存じませんね。たしかこの前、栄子さんがいらっしゃった時に何度か口になさっていたかと」
「え、ええ。良い方……ですわ」
 義弟の雄介とは話したことは一度しかない。それも栄子を捜して屋上へ行った時、偶然一緒にいたから話した程度。特になにか知っているわけではない。今日もそうだ、栄子が連れていっていいかと言ったから承諾したのだ。
 当り障りのない返答をしたとき玄関よりメイドの一人がやってきた。まだ島津家にやって来て間もないメイドだった。
「お嬢様、城嶋栄子さまがいらっしゃいました」
「わかったわ」
 立ち上がり両親を置いて出迎えに行く。両親の目が向けられている今彼女は悠然と立ち上がり優雅に歩むと告げに来たメイドが一歩後ろから歩き始める。島津家は広い、リビングから玄関まで随分と歩く必要がある。両親の耳が届かないところまでやってくるとメイドが言った。
「麗華様、お。お伝えしたい事があります」
「どうかしたの?」
 足を止めてメイドを見る。身を縮ませていた。彼女がなにかミスをしたときに見せる仕草なのだが麗華は気に入らない。
「それが……栄子さまの弟さまが」
「弟? 雄介さんがどうかなさったのかしら」
「どうやらここへ来るまでにはぐれてしまったようで……」
「なんですって」
 麗華の視線にメイドの顔は青ざめる。
 一歩、距離が縮むと無意識のうちに下がる。
「あら、どうしたのかしら。伊波さん」
 メイドの胸にはネームプレートがつけられている。しかし麗華が彼女らを名前で呼ぶ事はほとんどない。麗華にとってメイドたちは家具でしかないのだ。椅子や机でしかない。ならなぜ名前で呼ぶのか……そう言うときは決まっている。
 麗華が頬を叩いた。
 メイドは反抗することなどできなかった。叩かれた頬は赤く染まっていく。すぐにでも手を当てて痛みを和らげたかったがそんなことを彼女の前ですればまた叩かれることをメイドは知っていた。
「まったく愚図なんだから。すぐに捜しなさい!」
「は、はい!」
 メイドが屋敷を走りだす。
「まったく……使えない女……」
 と言いつつも麗華は雄介のことなどどうでもよかった。
 玄関に着くとメイドに囲まれた栄子がいる。心配そうな顔をしていた。いつも表情の起伏が少ない彼女がこうも表情を露わにしているのは珍しい。
「……麗華」
「大丈夫よ、広いと言ってもたかが知れてるわ。すぐに見つけてくれるわよ」
「うん……」
 言葉少なく肯くとメイドに目を向ける。メイドたちは走り出し捜索に乗り出すのだが、すぐに問題は解決された。
「麗華お嬢様、雄介様を連れてまいりました」
 現れたのはメイドのなかの長、三橋咲。彼女の隣りには雄介が立っていた。
「ごめんね、姉さん」
「もう、どこに行ってたの」
 栄子が麗華から雄介へと寄っていく。
「雄介様は薔薇庭園におられました」
「そ、そう。さすが三橋さんね。とにかく、捜索は中止よ。さぁお二人とも」
「ええ、行きましょ。雄介」
「ああ、姉さん」
 こうして二人は島津家へと入ることとなった。メイド長になにがあったのか知る者はなく雄介の本性に気づく者もいないまま。
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2012-12-03 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

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