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Chapter4-1 風紀の乱れ

 このところ……あの演説のあとから、昼の休み時間は校舎の見回りが開始された。というのも生徒会主催のパーティーが近付くにつれ周囲に自分たちは付き合っているのだと認めさせようという生徒が増えたためだ。
 ひとつの席に弁当を持ち合って食べたり、仲良く談笑する程度なら何も目くじら立てて見回りなどする必要はない。だが、なかには少し、それも大胆に人目につくようにキスをする者達までいる始末。
 教師の一部からどうにかしろと叱られたのは発端の生徒会ではなく風紀委員の面々、計三人である。その筆頭とも言える風紀委員長、綾瀬遙は毎日の見回りに出ていた。
 犬も歩けばなんとやら、数分も経たずに後者の裏影に潜んでいた一組のカップルに出くわした。肩を抱き寄せ今にもキスをしようとする二人に歩み寄る。
「そこ! なにをしてるの?」
 きつく言うと彼らの身体はびくりとして離れた。
「風紀委員の……」
 男のほうが遙を見て言った。遙の顔は学園に知れ渡っている。島津麗華へ憧れの視線を送るとするなら彼女には畏怖の視線が送られる。特に男子生徒からはおっかない存在でしかない。
 せっかく生まれもった端整な顔立ちも毎朝丁寧につくるツインテールもきちんとした評価をくれるのは同じ風紀委員の仲間か友人だけ。声をかけた男もやはり怖がっているようだった。
「風紀委員長の綾瀬遙です。校内でそういう行為はなめなさい、いいわね。もしまた忠告することになったら停学処分もありえます」
「そんな権限!」
「ありますよ。風紀委員は本来そのためにいるんですから、では……」
 無駄な会話も反論も許さない。自分が嫌われる事も承知しての行動である。遙は二人に背を向けてまた歩き出す。
「まったく……なんで私がこんな事……」
 普段なら絶対に吐かないぼやきを口にすると携帯電話が鳴った。彼女らしく流行の曲ではなく無機質な電子音だった。呼び出し人は同じ風紀委員の桜井とある。まだ一年だが成績がよく真面目なタイプなので気に入っている。
「どうしたの、桜井さん」
「委員長、すぐに部屋に戻ってもらえますか……その、生徒会長さんがいらっしゃってて」
「わかったわ」
 電源を切る。桜井の声に変わったところはなかったが珍しい人物がやってきたものだと遙は足を動かした。
「あの人……今日は登校してたんだ……」
 ぽつりと呟いた。
 島津麗華は週末から姿を現していない。耳に入ってくる噂では病気ではないらしく家の事情だった。現在自分たちが迷惑している件の張本人がその調子なのだ。遙はなにか言ってやろうと風紀委員に与えられている部屋へと戻っていく。
 着いたときすでに女王だけが椅子に座っていた。隣りには遙と同じクラスの城嶋雄介が立っている。そういえば、と思い起こせば彼もここ数日、休んでいた。
「今日は登校なさっていたんですね。なにやら数日お休みになっていたそうで心配しましたよ」
「ちょっと……調子を崩してましてね」
 どうせ、嘘だろうと思いつつも顔には出さない。生徒会の人間、それも会長自らやってくるなどこれまで一度もなかった。なにかある、そう思いながら彼女の対面に座った。
「それで、今日はどういったご用件で?」
「生徒会主催のパーティー……今年はちょっと変更がありまして」
「変更……どういった変更です?」
「男女組になって頂くという参加条件を撤廃しようと思ったの」
「はぁ? あれはあなたが、島津先輩が言い出したんじゃないですか!」
 大声をあげてしまった。
「あら? 賛成してくれると思いましたが……違いますの?」
「なぜ私が賛成するんですか?」
 よく意味がわからない。
「聞きましてよ。現在の我が学園の荒れ具合。皆さん周囲に恋人と認めさせるために公然でも目に余る行為にでるとか」
「先ほども一組注意したところですが……」
 確かに彼女が条件を撤廃させれば問題は解決するだろう。だがなぜ彼女がそんなことをするのか、腑に落ちない。
 そんな遙に城嶋栄子が口を開く。
「そういう生徒をなくそうと麗華は考えてるのよ、遙ちゃん」
 遙は栄子に幼少の頃から憧れを抱いている。今は敵といっても言い生徒会の書記になっているが仲の良さは以前と変わらない。
「ちゃん付けしないでくださいっ! 栄子先輩!」
「ともかくそういうことよ。風紀委員の方も少しは仕事が楽になるわ」
 今は栄子ではなく麗華のほう。彼女はうっすらと微笑を浮かべているがどうにも納得できない。誰かに何かを言われて条件を変えるような人物でもない。
「なにを企んでるんですか」
「企むだなんて……ちょっと手を貸して欲しいのよ……雄介」
「そういえば城嶋くん、なんであなたさっきから――」
「これを見て綾瀬さん」
 雄介が携帯電話を取り出す。意味もわからず遙はその一点、レンズを目にした。
 最後に覚えているのは雄介と麗華の笑顔だった。
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2012-12-03 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

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