FC2ブログ

第1話 沢木夫婦

 テレビの画面に何度も光が瞬いている。カメラの炊くフラッシュだ。多くの報道陣に囲まれて五人の男女が画面に映し出されている。テーブル中央で涙を流す老婆と彼女を支えるように横で手を握っている女性。カメラは二人の表情を逃すまいとアップで映し出している。特に泣いている老婆の顔を中心に映していた。
 画面右下には老婆と隣に座る女性の書類を伝えるテロップが短く表示されている。
『病院側、過失認める。残された被害者の訴え』
 事の発端は二ヶ月前に遡る。泣いている老婆の旦那が入院していた病院で死亡した。あまりにも不自然な死だったため残された遺族が訴えたのだ。担当したのは女性二人の隣にいる五十過ぎの男性、鏑木達哉である。彼は弁護士で病院側の不正を暴くため惜しみない努力と正義を貫いた。勤務していた医者のなかから不正を嫌う者を見つけ、味方につけて病院側の過失を暴いた。
 記者が質問をし、老婆が答える。感動のシーンだが僕の目は時折り画面端に映る女性に釘付けだった。
「そんなに食い入るように観てどうするのよ」
 耳に入ってくる声はテレビからのものじゃない。キッチンで夕食を作っている妻のものだ。フライパンをがたがたと動かしている音も一緒に聞こえてくる。
「いいじゃないか、葵の晴れ姿だよ。せっかくテレビに出てるんだから見たいんだ」
 弁護士、鏑木達哉の隣りにもう一人、スーツ姿の女性がいる。髪を後頭部でまとめて括り赤い眼鏡をかけた彼女は笑顔ではない厳しい表情ながら背を正して座っている。
 名を沢木葵といい、僕の妻だ。そしてキッチンで夕食を作っている人物でもある。
 テレビの中、彼女へ言葉が投げかけられる事はないが一瞬でも映ると僕の視線はそっちへと吸い寄せられる。
「ここに本人がいるのにそんなにテレビの中の私が気になるの?」
「気になるよ。自分の奥さんがテレビに映ってるなんてなかなかないしね。それに名誉じゃないか。病院側の不正を暴いたなんて」
「私の力じゃないわ。全部、叔父様のお力よ」
 叔父様こと鏑木弁護士はテレビ画面の中で記者からの質問に粛々と答えている。
「そうなの?」
「そうよ。私なんてまだまだよ」
 謙遜しているが実のところ彼女の力が低い事はない。彼女はまだ二十六歳で弁護士としてデビューしたのは二十四の頃だ。二十四で弁護士というのは日本において最速を表わす。よほどの事がない限りその歳で活動できる人物はいないだろう。その若さで活動を始めた葵は叔父である鏑木弁護士の事務所で働いている。
 鏑木弁護士と会えばどれだけ彼女が素晴らしい女性か延々と語ってくるほどだ。
「さぁできたわよ、食べましょう」
 テーブルに洋食皿に乗った夕飯が用意されていく。夕方まで仕事漬けだったのに僕の夕食まで用意してくれる。
「でもよかったのかな……今頃、事務所じゃ祝勝会でしょ。葵がここにいたんじゃ」
「もう、そんなこといいの。叔父様だって何日も私が家に帰らなかったのをすまないって思ってるのよ。だから気を使ってくれたの」
「でも……」
 葵の勤める事務所は非常に繁盛しており彼女もよく駆りだされる。そのとき、ここ僕達の家には帰ってこなくなる事が良くある。彼女が弁護士として働き出してすぐからよくあることなのだが、僕はこの二年でもう慣れてしまった。
「なぁに~、実は私といるのが嫌なのかな~」
 少しふざけた感じのする口調だったが顔は笑っていない。テレビのなかにいる彼女と同じ顔だった。昔から彼女はよくそういう表情をする。
「そんな事言ってないだろ。僕はキミのことを思って」
「だったら私のしたいようにさせてちょうだい。わたしの旦那さま」
 こういう時、僕は決まって彼女に押し切られる。でもそれでいいと思う。彼女が夕食に手をつけ始めると僕も腹に詰め込んでいく。
 こうやって二人で夕食を食べるのは実に一週間ぶりだった。何度か家に戻ってくることもあったがゆっくりと過ごしている時間はなかった。僕らはようやく夫婦水入らずで夕食を取れる。
 何度かまだ映っている画面に目を動かす。厳しい表情のまま彼女は座っている。この映像が映し出された頃から何も変わっていない。眼前で食事と会話を愉しむ彼女の姿とはまったく違う。
 いつから葵はそんな表情をするようになったのだろうか。おそらくあの頃、大学を卒業した頃だ。
 妻の葵と出会ったのはもう憶えてもいないくらい昔だ。おそらく物心つく前になる。気づいた頃には隣にいた。僕らは家が隣同士で親同士も仲がよく週末には必ずといっていいほど一緒になにかして過ごしていた。旅行に行くのも庭でバーベキューをするのも全部一緒だったのだ。だから当然のように僕たちも仲が良くなり同じ小学校、中学と進学し果ては大学まで通った。
 いつもすぐ傍には彼女がいた。
 実に人生のほとんどを彼女と過ごしている事になる。
 僕の大切な時間だ。
 大学卒業と同時に僕は就職し彼女は弁護士への道を本格的に歩んでいった。それでも学生時代と同じように接していた僕は葵が弁護士になってすぐに結婚を申し込んだ。大学卒業からできはじめた隙間のようなものが僕は嫌だったのだ。彼女のことが好きすぎたのかも知れない。
 けれど葵は僕との結婚を承諾してくれた。
「ねぇ、もうすぐね……七月七日が何の日か憶えてる?」
 唐突に話の腰を折ってまで彼女が言った。
「憶えてるよ。僕らの結婚記念日だろ。忘れるわけないじゃないか、まだ二年目だよ」
「確認したわけじゃないわよ、今年はどこかに旅行に行きたいなって思ったの」
 僕たちは新婚旅行に行っていない。それどころか旅行らしい事もできていない。小さな頃から一緒にいる事が多かったがそれは互いの両親がいるところで僕ら二人きりでどこかへ行く事はなかった。
「そうだね。でも行けるの?」
「その段取りをつけられるように調整してもらってるのよ」
 親族であると鏑木事務所で働いているとそれなりに優遇されるのだろうか。
「まぁ長い休みに入れるかはどうか解らないけれど実も休みの調整よろしくね」
「あ、ああ」
 彼女とは違い僕の返事は自分でもわかるほど鈍かった。
 弁護士という華やかな仕事とは違い僕の仕事は実に普通だ。学生時代からそれほど頭が良かったわけでもなく運動神経もほどほどの僕が就職したのはなんてことのない会社だった。営業マンの一人として毎日のようにあちこち駆けずり回るのが日課だ。
 だけどそんな会社も不況の煽りを受けて見事倒産。たった三年で僕は無職になった。再就職しようにも上手くいかなかったところを親友の海藤信哉に紹介された会社に就職が決まった。
 以後、一年間また営業マンとして働いているわけだが、連休などくれるのだろうかと思うと応えられそうにない。
「はっきりしてよね。実の悪いくせよ」
「そう言われてもこればっかりはね。まぁ取れるようにあわせてみるけど」
「お願いよ。大事な日なんだから」
 テレビではもうニュースが終り次の番組がはじまっていた。
 夕食の片付けになると葵はさっと食器を片付けてしまう。手伝う隙さえなかった。手際のよさは外でも家でも変わらない。しばらくじっと彼女の後姿を見る。
 もうずっと一緒にいるとはいえ彼女の身体が放つ魅力には参る。テレビに映っていた上半身の胸の膨らみも確かにボリューム大だけれど、隠れていた尻の大きさもまた素晴らしい。夫として鼻が高い。
 高校に上がった頃からだろうか彼女の身体がやけに女らしくなりはじめた。
 僕は彼女のことなら何でも知っている。
 あの頃、大きくなっていく乳房やお尻を僕は無意識の内に見てよく怒られていたっけ。でも視線をそらすことなんかできなかった。僕がいやらしいんじゃなくて、魅力的過ぎるんだ、葵が。
「ねぇ、いやらしい目を向けてる旦那さま」
「な、なにかな」
 葵は男の目によく気づく。とくに僕の目がそういった含みを持っているときは今のように背後であったも気づいてしまう。
 蛇口から流れていた水を止めると葵は振り返った。
「何か言いたい事があるなら言ってみなさいな」
 手を拭きながらこちらへ来る。一歩前へ歩くだけでその大きく実った胸元が揺れている。
「僕の奥さんは綺麗だなって思って見蕩れてたんだよ」
「ほんとうに……それだけなの?」
 椅子に座ったままの僕に近付くとその大胆な胸元を意識させようとしてくる。ブラウスの空いた胸元から白の下着が見えた。
「寝室に行こうか」
「ええ……あなた……」
 せっかく二人きりの夜なのだから一緒にいたい。僕がそう思っていたように葵も同じように思ってくれていたのだろう。二人で寝室へと向かう。
 暮らしているこの家は僕の祖父母が暮らしていた一軒家で都市部から少しばかり離れている。僕も葵も仕事が東京のど真ん中にあるということで最初は止めようかと思った。なにせ通勤時間が僕の場合一時間以上あるのだ。でもそこに例の会社倒産が重なった。実家に出戻りするのもぎこちなく結局ここへ移住する事になった。
 でも住んでみるとかなり条件がいい事に気づく。マンションでの暮らしでは感じない開放感がある。大きな声をだしても気づかれないのだ。近所も平穏でストレスもないし、部屋の数も多いときてる。狭いマンションを借りるよりはよかった。
 確かに通勤時間だけはどうにもならないけれど、こうやって二人だけの家が手に入ったのは幸運だ。
 寝室につくと僕らは同じベッドに潜り込む。ダブルベッドと呼ばれる二人用のベッドで奮発して買ったもの。毎晩、僕と葵だけの場所だから金額は気にしなかった。
「まだシャワー浴びてないよ」
「いいの、久し振りなんだから……ね……」
 目蓋を閉じる。テレビで見た女性はいなかった。そこには僕の愛する葵がいる。
 そっと唇を重ねる。柔らかく甘い香りに包まれた。
 質素な白いブラウスを脱がし双乳を揉む。優しく、優しくと頭の中で繰り返しながら彼女の反応を確かめる。
「はぁ……あぁ……」
 少しずつ息が変わりだしている。ブラウスを外しベッドの外へ落すと桃色の乳首が露わになった。大きく張り裂けそうなほどたわわに実った乳房に不釣合いな子供のような乳首をしている。僕は挨拶代わりにぺろっと舐めると口に含んだ。
「ひゃぁっ……はぁっ……もう、子供みたいなんだから」
 乳首に吸い付くと彼女はよくそう言って頭を撫でてくれる。昔から同じ年だというのに姉のように感じるところのある女性だった。彼女に頭を撫でられるとなぜか僕もいい気分になれる。
「ちゅぅぅ!」
 お礼にと音を鳴らして吸い付くと葵は身体をくねらせて大きく息を吸う。
 それをみて僕は股間へと手を伸ばしていく。下着の上からなぞるともう準備が整ったように濡れている。あまり激しい愛撫をしなくても彼女は濡れる体質らしい。
 はじめての夜の時もそうだった。
 葵は恥ずかしがっていたが僕が気にしないというとなんとか収まる。
 下着の中へ指を潜らせると茂みを掻き分けて秘部に触れる。下着越しに感じていた滑りがいっそう濃くなると指先に絡みついてきた。僕は葵に聞こえるようにぴちゃぴちゃと鳴らしていく。
「だっめぇ! そんなに音立てちゃ……恥ずかしいわぁ」
 そんな風に言いながらも彼女が興奮しているのはよくわかる。性器の中に指を挿入し慎重にヒダをなでる。すると葵の身体が事あるごとに撥ねる。
「葵、可愛いよ」
「もう実のえっちぃ……ふふっ……」
 恥ずかしい事なんかない。彼女の身体をまさぐっていく。次第に僕のほうも昂ぶりズボンを中から押し上げてくる。
「ねぇ、そろそろ……いいかな?」
「ええ、いいわよ」
 服を脱ぎ裸になる。勃起した性器を僕が握ると葵は自ら股を開いてくれた。でも性器を直視する事は恥ずかしいと目を背けてしまう。
 葵はおそらく男の性器を真直で見たことがないと思う。
「あとコンドームお願い」
「解ってるよ」
 僕らの間に子供はいない。
 夫婦の営みの際、必ず僕はコンドームの着用を義務付けられる。それは彼女の仕事にある。まだ弁護士として駆け出しだから子供を作って時間を取られたくないのだという。僕も彼女の意見を尊重し賛成した。僕らはまだ生の性交に及んだ事はない。
 コンドームを装着すると少し窮屈な感じはするが葵の膣内へ挿入するともうそんなことはどうでもよくなった。
「んはぁ、実が入ってきてるわ……」
 僕は我慢などできない。腰を動かし始める。
「はぁ、はぁ、あはぁ! んぁっ!」
 ストロークに合わせて彼女の甘美な声が寝室に響く。遠慮しがちな小さな声だったが他に鳴る音がないのでよく聞こえる。
 膣内の柔らかさを貪るように突く。ベッドの上で揺れる双乳に手を伸ばし今度は力を込めて揉みしだく。」
「んあっ! だ、だめぇ! おっぱいそんなに強く揉んじゃダメェ!」
「でも、そんなこといっても!」
 やめられるはずがない。彼女の膣内で僕の性器が限界を迎えていく。
「はぁ、はぁ、実! みのるぅ!」
 葵もそれが解ったのか僕の名前を連呼してくれる。腰を振り叩きつける。
 ゴム越しに彼女の膣内へと射精した。
「はぁ……はぁ……」
 性器を引っこ抜くとお互いに全力を尽くしたように倒れる。僕はゴムを取り外すとベッド脇に置いているゴミ箱へと投げ捨てた。しばらく疲れを取るために呼吸をすると葵が僕の身体にひっつくように腕を回してくる。
「ごめんね」
「なにが?」
「子供のこと……」
「なんだそんなこと。気にしなくてもいいよ。僕は葵が弁護士って仕事にどれだけ熱心になっているのか知ってる。だからもう少しぐらい我慢できるよ」
 彼女は小さい頃から弁護士に憧れていた。本当に目指したのは高校二年のときだった。将来の仕事を意識するようになってから彼女はそれこそ一直線に弁護士への道を歩んでいった。大学に入った頃には今の鏑木弁護士事務所ですでにアルバイトまでしていたぐらいだ。
 そんな彼女の夢を壊したくない。でも……。
「でもさ、三十になるまでには一人は欲しいね」
「それもそうよね。難しいところだわ」
 ふふっと笑う彼女。その笑みにはまださっきの微熱が残っているように思えた。
「明日はどうするの?」
「私は休みだけど信哉君のところへ行く事になってるの」
「例のセラピー?」
 葵は肯いた。
 弁護士になってすぐの頃、葵は倒れた事がある。大事にはならなかったが疲れが溜まっていたらしい。簡単にいうとストレスだ。小さな頃からなんでもそつなくこなして来た彼女は仕事場でも同じだった。そのため周囲からの期待が大きくなりすぎて結局は身体を壊してしまった。
 そんな彼女を診てくれたのは僕らの親友である海藤信哉だ。彼とは高校の頃、葵が弁護士になろうと決めたときに出会った。実家が大きな病院で後を継ぐことを決められているとよくぼやいていたのを憶えている。
 信哉は今は実家の病院で精神科に勤務しており葵のセラピストをしてくれている。
 葵もまったく知らない先生よりは知っている信哉のほうが信頼できるといっていた。病院でどんな事をしているのか訊いたこともあるが内容は例え夫でも守秘義務があるから答えられないと言われ僕は知らない。
 ただ、葵がいうには仕事のなかでの疑問や相談をしてアドバイスをもらっているだけだと言っていた。
「治療の程はどうなんだい?」
「治療って程でもないのよ。ただ、心を落ち着けるために行ってるだけよ」
 誰にだって言えないことぐらいある。僕は彼女のプライベートを尊重し詳しく聞くことはない。
 なにより信哉のところへ通うようになってから葵は前よりも随分と元気になっている。
「そっか。でも明日は夜にあいつと会う約束してるんだよな」
「そうなの?」
「ああ、もしよかったら葵も来るか?」
 昔……といっても大学時代だから6年ほど前のことだがよく三人で酒を飲んだ。信哉は家柄だけでなく顔もよかったから随分と女性からアプローチをかけられていたが僕達といるほうが気楽だと誘いを断っていた。
「やめておくわ。男同士で過ごす時間だって大事でしょ」
「そんなもんかな」
 葵は笑ったままだった。そんな彼女の顔を見ていると股間がまた大きくなっていく。吸い寄せられるようにして唇を重ねた。
「もう……旦那さまはまだ元気なのね」
「ああ」
 僕らはまた一つになる。
関連記事

tag : NTR 催眠療法プログラム

2012-12-17 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
ジャンル問わず面白ければ好き。
大阪在住・12/28生
相互リンク募集中です

カウンター

おすすめ





プレイ中