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第6話 奉げられる生贄

 実と分かれ事務所へと葵は顔を出した。挨拶をしたあとすぐに依頼者を強姦したという阿久津正志について各所より集めた情報を精査する。各所というのは他の弁護士事務所である。彼に関して情報はあっという間に集まった。依頼人であり被害者である三島奈美以前にも同様の件は発生している。すべてが示談での解決となっているため当人と関係した人物以外は知る由もない。
 阿久津正志はまだ医者を続けている。女を暴力で犯し、金で解決する。そんな男が医者を続けられている理由など簡単だ。阿久津家の出であるというだけだ。彼の勤務する阿久津病院は彼の家そのものであり、彼の存在がゆるぎないものとしてあるからこそ傍若無人の振る舞いも許されている。被害を受けた女性が示談に応じることがわかっているからの所業だ。
 ……最低の男だ、許せない。
 葵は先日、彼の元へ連絡を入れている。阿久津は初めこそ悪態つくような声での応答だったが三島の名前を出した途端、態度を急変させて明日の昼ならと会う事を承諾した。取り付けた約束の時間まで集めた情報を再確認して事務所をでた。 
 事務所から電車を乗り継ぎ阿久津病院へとやってくるとその要塞じみた巨大さに呆気に取られる。長い付き合いになる海藤の病院も相当の大きさであったがここはもう別世界だった。塔というよりは城そのものだ。
 受付で阿久津のいる部屋の場所を聞くと随分とはなれている。廊下を歩き辿り着く頃には10分は掛かっていた。
 病院内の部屋というのはどこも同じで質素な壁にはめ込まれた質素なドアというのがお決まりだがそこだけは違う。質素な壁に沿って現れる重い板チョコのような黒い扉。阿久津正志という男のために用意されたとはっきりわかるものだ。
 葵は時間ぴったりに扉を叩く。すると中から声がして入るように促される。扉はやはり重く感じられた。ここが病院ではないようにさえ思える。
「昨日話した弁護士さんだね、生憎私は時間がない。昼の休憩が終わり次第、また診察が始まる。用件を言ってくれ」
 扉から解かるとおり室内もまた病院とは違う。床には絨毯が敷かれソファーもテーブルもまるで応接室のように並べられている。このような部屋は通常関係者のいる上のほうだ。だがここは一階で彼はここに勤務する医者の一人でしかない。一介の医者が部屋などもてるはずも無い。贅沢を尻に轢いて阿久津正志はソファーに座っていた。
 来客に腰を上げることも無いらしい。嫌味ったらしく顔をしかめているだけだ。
「電話でお伝えしたとおりです。三島奈美さんの件についてです」
 対面に座ると阿久津を見る。体格はまぁ普通だ。もし迫られても押しのけようとすればどうにかできるだろう。
「彼女はなんて言ってるんだ」
「先に彼女を強姦した、というのはお認めになるのかお聞きしたいのですが?」
「強姦か……」
 溜め息をつくように息を吐く。真剣さなど微塵も感じられない態度に葵だけが苛立つ。
「いやね、彼女と性的関係を持ったことは認めるよ。でもねぇ、強姦と言われると……ねぇ」
「彼女も合意の上だったと?」
「少なくとも僕はそう思ってるよ。この病院の看護師が着ている服は見たよね?」
「はい」
 廊下ですれ違う看護師たちは皆、身体にぴったりと張り付くようなナース服を着ていた。だが、なんだというのか。阿久津は頬を持ち上げ目尻を垂らす。まるで狸のような顔だ。
「どうだったかな、スカート短いよね。胸のところもぴっちりするようになってる。あんな格好で迫られると……ね」
「では彼女が誘ったというのですね」
 まさにその通りだと言いたげな目をしている。確かにこの病院のナース服は少々キツ層に見える。だがスカートはしゃがんでも下着が見えないほどの長さをしている。胸元だって隠している。なにもいやらしい格好ではない。そんなのは男の側から見た我侭な性の衝動だ。
「だいたい拒まなかったんだよ、ええっと誰だっけ、ああ、三島って子は。彼女さぁ胸おっきいよね。弁護士さんほどじゃないけどさ。あれは武器になるよ」
 予想通りの下劣な男。葵の胸をじろじろと見る。もっとも葵が忌み嫌う男そのものだ。
「あの日だって胸を揉んでもなにも言わなかったんだ」
「それは貴方がこの病院の――」
「僕がこの阿久津家の人間だから?」
 言葉が遮られる。
「そうです。彼女が貴方を拒めばどうなるかぐらい考えたのでしょう」
「じゃあこれって強姦じゃないよね。合意してるじゃないか。だってそうでしょ、彼女は働き口を確保するために僕に抱かれる事を承知したって事じゃないか。お互い得をしたわけだ」
 ……女を侮辱するのもいい加減にしなさいよ。
「本当にそんなふうに思っているんですか?」
 心の奥で感じる苛立ちを隠したままいった。
「そう考えるのも一つあるってこと。僕は正直な男でね。迫られると断れない。彼女が仕掛けてきた罠に僕はまんまと嵌ったのかもしれないな」
「あまり女性を馬鹿にしないでください。これまで貴方が手をかけてきた女性ばかりとは限りませんよ」
「なんだ知ってるんじゃないですか」
 口元がにやりと笑ったように見えた。
「私どもの事務所だけでなくほかの事務所の弁護士にも有名人ですよ」
「なら話は早いよね。三島って看護師もどこかで僕のことを聞いて示談金目当てって可能性もある」
 その可能性はない。ないはずだ。彼女ははじめから示談という言葉を口にしていなかったし、彼を告訴するとだけ言っている。なにより葵は被害者である彼女を疑うなんて真似ができない。自分は彼女の味方なのだから。
「彼女は今のところ、示談という案は持っていません」
「なら僕から提案だ。一度会おう、そして話し合おう。だって今でも僕は合意の上だって思ってるんだ。話し合いもせずにやれ強姦だ、私はレイプされたんだと言われてもね。弁護士さんだって現場すら見てないじゃないか」
 断るべきだ。一度でも顔を合わせるとなにをされるか解からない。彼の周囲にある物が姿を変えて擦り寄ってくるだろう。
「三島さんと一度相談させていただきます」
 今はそう答えるだけだ。
「そう、よかった。相談して考えを纏めたらまた連絡してよ」
「ですが」
「まだなにかあるの? もうそろそろ診察へ行かないと、患者が待ってる」
 腕につけた時計は随分と高そうに見える。
「今のところ告訴するという考えに変わりはありませんし、先ほどの貴方の言葉も女性軽視と見られる部分が多々あります」
 息を飲む。口の中で言葉を噛み潰す。言いたい事ならいくらでもある。
「ここでのことはオフレコだ。言いたい事があったら言っていいよ。なにせまだ事件化してないんだからね」
 感情が外に出ていたのか、阿久津はいった。強姦事件は親告罪にあたる。被害者が告訴して初めて事件化する。彼の言うとおりまだ事件ではない。葵は仕事中の睨むような鋭い瞳で阿久津を見ていう。
「どのような真実があっとしても貴方が自分の地位を利用して女性に暴力を働いている事に変わりはありません」
「それで」
「私は同じ女性の味方です」
「つまり男の敵?」
 感情を曝け出すようなことはしない。葵は感情を押し殺していった。なのに阿久津はにやついたままである。
「そう受け取っていただいてもかまいません。それでは失礼します」
 もう我慢できそうになかった。ソファーから立ち上がり入ってきた扉を目指す。ドアノブに手をかけると同時に背後から声がした。
「一度は顔を見せろよ。話し合いもなしに一方的に告訴なんてさせないからな」
 ならどうするというのだろうか。この病院の大きさや阿久津家の持つ権力が襲ってくるとでもいうのか。脅しのような言葉は背中を冷えさせた。
「失礼します」
 今一度、頭を下げて退出した。
 阿久津正志はさっきまでのにやついた表情を捨てて睨んでいた。まるでさっき葵が睨みつけたように。

 病院を後にしてすぐのこと、事務所より鏑木達哉から連絡が入った。夕食を共に過ごそうというものだった。勿論、この夕食は親族としてのものではなく仕事上のものであり拒否することはない。葵は了解したと返事をして夕方までの行動をどうするか悩む。
 阿久津正志との一件をどう伝えればいいのか。携帯電話を睨んでいると時間ばかりが経って結局は家へと一度帰宅する事にした。現在、葵の受けている仕事は一件だけであるため随分と時間がある。夕食までのんびりとするのもいいかもしれない。

 夕刻、といってもすでに太陽が落ちたころ。葵は再び事務所に赴いて鏑木と合流した。二人揃ってどこへ行くのか聞くとこれから事務所にとって重大なクライアントと会うと説明がなされた。相手が誰かと聞くと鏑木は苦い顔をして答えなかった。
 鏑木が誰と会わせたがっているのはわかったが深く追求する間はなかった。タクシーに乗せられる。ビル群を横に走り過ぎ去っていく。目的の場所に着いた時、長い壁に包まれた屋敷が眼前にあった。鏑木に連れられて何度か着たことのある高級料亭だ。
 すでに相手方は待っているらしく鏑木とともに急ぐように廊下を歩いて辿り着いた。
「鏑木です、遅くなりました」
「かまわないよ、入りたまえ」
 部屋の中にいる人物の葵にも聞こえていた。男の、それもしゃがれた声である。
 一枚の襖は擦る音を立てて開かれる。黒塗りの長机に男が三人並んで座っていた。
 廊下手前には眼鏡とスーツの若い男。若いといっても隣の二人に比べてという意味で葵よりも歳は上になる。三十前半ぐらいだろう。無表情でそっと置き物のように座っている。
 鏑木に答えていた男はその隣、中央の男だ。しゃがれた声は年齢からくるものだろう、もう七十を超えた老人だ。だがこの男を葵はよく知っていた。彼女だけではなく国民ならよく知る人物。
「久しぶりだね、鏑木君」と目尻を垂らして微笑む。
「ご無沙汰しております。阿久津先生」
 鏑木は彼の前に座ると深々と頭を下げた。葵は席につくことができず入り口付近でとまっていた。
 中央に腰を降ろしている老人は阿久津一郎。もう何十年と代議士として君臨しつづける男。
 にっこりと微笑んでいるが内心何を企んでいるのか明白である。なぜなら彼の息子である阿久津正志は昼間、葵と会い強姦事件について話したばかりだ。そして阿久津正志は父の隣り、少し奥に居座っている。
 ……なるほど、父親にすがりついたというわけね。
 遅れながらも葵は座敷に踏み入る。できればこの室内にいたくはなかったがここで帰るわけにもいかない。
「そちらの女性が噂の?」
「はい。姪の……葵くん、挨拶を」
 前を向けば阿久津正志がにたりと笑っている。何も言わないのはこちらがボロをだすのを待っているのか。彼の父親はというと鏑木に見せる笑みと同じ表情だった。幾度となくテレビに映った彼が見せるものに近い。
「……沢木葵と申します」
 頭を下げる。彼らとの間にある机の上には日本酒の入った徳利が並んでいた。先にはじめていたようでちょこの中には透明の酒がゆらめいている。
「さっそくだが……もう解かっているね。私がこうやって招待した理由は」
「そちらにいるご子息の、正志さんのことですよね」
 返事をしたのは葵だ。
「そうだ。今日の昼のこと聞いたよ。うちの息子が随分と失礼なことを言ったみたいで申しわけない」
 今度頭を下げたのは阿久津一郎。彼が誰かに頭を下げるところなど見たことが無かった。白髪混じりの髪はべた塗りで固められており室内灯で照らされる。
「おい、親父。頭下げる必要なんかねえよ」
「こらっ! お前のためにやっとるんだろうが」
 声を挟んだ正志は一郎の声で塞ぎこまれる。あの悪態も父親の前では手も足も出ないらしい。徳利を掴んで酒を注ぐと一気にあおった。
「まったく、こいつには手を焼いていてね。何度注意してもやめんのだ。だが……もう金輪際女性に暴力をふるわないと約束させる。必ずだ、どうかな」
「どう、というのは今回の件を示談にしろと?」
「そうだ。なにも事件にしなくともかまわないだろ? こいつの話によれば彼女も誘ってきたらしいじゃないか」
 そんな言葉を本当に信じているのかと思いたくなり抑えこんでいた感情が露見する。
「それは勝手な解釈だとっ!」
「葵くん!」
「いやいや、かまわん。かまわんよ。沢木女史の怒りもごもっともだ。だがね、何も頼んでいるんじゃないんだよ。わかるかい? お利巧な弁護士さん」
 垂れていた目尻が急に元に戻る。テレビで見る激昂したときの顔に近い。薄っすらと開いている目蓋の中、鋭い眼球だけで物事を語る。何を言おうとしているのか、そんなことは解かっているつもりだ。そして従わなかった場合、どうなるか……。
「あの、叔父様……わたし……」
 どうしても納得できない。如何なる圧力が掛けられようとも隣にいる男は女性に暴力を振るった人物で、自身も認めている。被害者の涙を蔑ろにできるはずもない。そんなことをしたら沢木葵は自分を捨てる事になる。
「帰らせていただきます」
「お、おい!」
 立ち上がり入り口へと向かっていく。たった数歩しかないその室内がやけに広く感じた。背後から叔父が呼ぶ声も随分遠くからのものに聞こえる。襖が手の届く場所にやってくると踵を返し俯くようにしていう。
「申しわけございませんがこういった会食はどうも肌に合いませんので」
「かまわんよ。キミがどうしようが物事は粛々と進む」
 どのような反応が返ってくるかと思うと阿久津一郎は気にも止めないのか平然と言った。
「失礼します」
 葵は頭を下げて早々に座敷から出る。彼女がいなくなると一郎は眼前のちょこを持ち一口流し込む。机を挟んで座っている鏑木は辛抱できずに自ら口を開いた。
「……申しわけありません、阿久津先生。私は……あの子の叔父でもあるので」
「何度も謝らんでいい。行ってやりなさい」
 続いて鏑木が立ち上がり追いかけるように座敷を出て行く。何一つ話すことなどできずに終わった。

 料亭の廊下を足早に過ぎ外へ出る。外灯がぼんやりと道を照らしていた。駅まですこしばかり遠いがその間に心の整理もつくだろう。そう思った矢先、鏑が掻けてきた。
「葵! 待ちなさい、葵」
 必死になって追いかけてきたようである。
「叔父様、見損ないました」
 そう言いながらも彼があの場に留まらず追いかけてきてくれた事に安堵していた。もしあの場に残ったままなら例え恩ある叔父であろうとも今後溝はできたままになる。
「そういうな。彼は私の重要なクライアントなんだ。事務所を設立するときにも助力してくださっていてな」
「……今回の件、初めから示談にするつもりだったんですか?」
「すまん」
「……そんな顔しないでください……」
 三島奈美が尋ねてきた時の事、鏑木はあまりいい顔をしていなかった。相手が阿久津正志であり彼の父親が阿久津一郎と知っていたから。そして彼に頭が上がらないことを初めから解かっていた。
 はじめからこの話は示談になって終わるのだ。阿久津正志は今回も強姦事件の犯人になることはない。
「葵!」
 葵は鏑木に背を向けて歩き出す。できれば顔を見せたくは無かった。零れ落ちそうになる涙を堪えていたから。
「必ず連絡を入れます。それまで少し考えさせてください」
 まだ声が出せるうちにいうと歩き出す。今度は鏑木も声をかけなかった。一人で道を歩き風にあたる。考えるといってもなにも思い浮かばず駅まで来ると携帯電話が鳴った。こんな状態では誰にも、夫の実にも会えない。思いながら携帯電話を見ると表示には海藤信哉とあった。

 弁護士二人が来て早々に退散した座敷。阿久津正志は辛抱できずにいった。
「よかったのかよ、親父。まともに話もせんでよぅ」
 正志には誰よりも父親に腹が立っている。自分の状況を変えられる人物は父親しかいない。これまでそうしてきたのだ。だというのに父親は怒らせて帰してしまった。息子の言葉を聞くと父である一郎は声を出さず、溜め息をつく。
「な、なんだよ」
 父が何を言おうとしているのか正志には理解できない。
「お前はあの女を見てどう思った?」
「女? あの厭味な弁護士か……好かないな」
 息子は正直に答える。正志の好みは自分の思い通りになるか弱いタイプ。女らしい女が好きだ。それに比べて沢木葵は気が強すぎた。
 続いて父はスーツの男へと声をかける。
「黒木、お前はどうだ? 彼女について調べてくれたお前ならあの魅力に気づいておるだろ」
「はい……非常にそそられるお方かと」
 眼鏡とスーツの男は黒木という阿久津一郎の秘書である。正志とはそれほど親しく無いが一郎の傍を離れることは滅多にないためここにいる。黒木の表情に変化は無く声にも感情は見受けられなかったが眼鏡の奥で瞳は冷ややかに笑っていた。その笑みに気づかない正志はどうせご機嫌取りだと黒木の言葉を本心とは思わない。
「そうかぁ、そりゃ胸はでっかいし尻も形はいいがあの気の強さはなぁ。俺はもっと」
「馬鹿者が……だからお前はいつも大した事のない女に手を出すんだ」
「うっ」
 これまで何度も釘を刺されてきた。その度にこうやってすがりついてきた。正志には言い返す言葉も無く手をとっくりへと伸ばす。
「彼女のような女はお前が手を出すような尻軽とは違うんだ。気品がな。男なら誰でも抱かせるという安っぽさのない女だ。真の男とはそういう女を好むものだ」
 父も同じようにとっくりへと手を伸ばし酒を注ぐ。ちょこに注がれていく酒の水面に視線を向ける。透明の酒に反射する彼の目には先ほどまでいた弁護士の姿が焼きついていた。
「解るか、あの身体つきが……幼少から随分と良い物を食べて育ったのだろうな。わしの小さい頃など戦後でメシなど腹いっぱい食った事が無かった。それに比べれば近頃のガキは腹いっぱいどころか食いきれなければ捨ておる。そんな時代のなかで育った女だ」
「それが関係あるのか?」
「大いにある。贅沢の極みではないか。戦後とは決定的に違う。子供の頃から腹は満たされているばかりか勉学に励むこともできる。科学は進化しどこに不満がある? これ以上ない幸せだろう。生温い温室で育つんだ」
「ですが阿久津先生はそこがお好きなのでしょう?」
 一口、喉を酒で熱くする。
「わかっておるな、黒木は。そうだ、そうやって育った女はな、肌が違うのだ。女としての素質が決定的に違う。抱き心地がな。鏑木の態度も同じだ。親に蝶よ花よと育てられたのが目に浮かぶ。大事に育てられてきたのだろうな」
 目に焼きつく沢木葵の姿。彼女を観てきたかのように想像し語る。
「平和な世界であの才女さまはすくすくと育ったわけだ。全身に愛を注がれてな」
「どうなんだい、黒木さん。あの女、頭がいいのか?」
「沢木女史の学歴は間違いなく本物でした。本当に優秀なお人ですよ」
 淡々と語る。一郎の熱のこもった声ではないが彼もまた沢木葵に対しては興味があるように見える。
「なによりあの抜群のプロポーションだ。乳房も尻も美貌もすべて一級品ではないか。男の欲望を一身に受けようとしておるカラダだ。なのに夫にはほとんど触れさせておらん」
「ん? なんでそんなことわかるんだよ。さすがに黒木さんだって」
 これまでの想像とは違う言葉に首を傾げる正志。
「そちらのほうは海藤信哉さまよりお聞きしております」
「海藤って……あの信哉からか?」
 二人は小さな頃から知っている。お互いに巨大病院の家に生まれた仲だ。歳が離れているため兄のように接してきた。最近では大学の頃に先輩から受けた影響から妙な精神科医とやらになったと聞く。
「どうやら沢木女史は海藤さまの元へ通っておられるようですでに治療内容も把握済みです」
「確かあいつのやってるのは」
「はい。催眠治療でございます」
 そうだ、確かそんな名前だ。だが正志にはその治療が本当に効くか信じられない。
「なるほど、もうあの女の弱点はお見通しってわけか。ならなんでさっさと犯さないんだよ。親父だって最近はご無沙汰だろ?」
「だからお前はいかんのだ。もっと女を大事にしろ。ただ犯せばモノにできると思っているから今日のようなことになるのだ」
 息子の言葉は父親には届かない。正志が何を言っても否定される。
「いいか、ああいう女はな。逃げられないようにしてねっとりこってりと弄り回して自分が男にとって肉壷でしかないことを徹底的に思い知らせるんだ。身体の芯から男に媚びる牝だとな」
 言って酒をあおる。
「沢木葵は優秀な牝になる。わしはそう思っとる。正志、お前はああいった女を孕ましてこそ男の本懐なのだと知れ」
 静かな口調だったが一郎は息子に苛立っていた。彼が手を出す女は女々しい者ばかり。さらには金をせびりに来る。その度に何度も大金をばら撒いてきた。
 阿久津一郎にとって女とは征服すべき対象でしかない。
 電子音が鳴り黒木が懐から携帯電話を取り出す。すぐに一郎へと差し出した。
「先生、海藤様からお電話です」
「貸せ」
 口元を緩ませて電話を耳に当てる。聴こえてきた若者の声はこれから、とある女が自分の元へ来るというもの。阿久津一郎のために作られる生贄の話。
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2012-12-17 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
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大阪在住・12/28生
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