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第9話 新たな生活

 夫がベッドから出て行く音が耳に入っていた。仕事にあわせて準備をしている。いつもなら起きて彼の朝食を用意する。一緒に着替えて、一緒に家を出て、一緒に電車で途中までいく。しかし葵はなにもせず、ベッドの中で時が過ぎるのを待つ。完全に彼が家からいなくなるまで目を伏せたままにしていた。
「ごめんなさい……」
 静まり返った家の中、身を縮めて謝る。口にする言葉は空しく、我が身を痛々しくするだけだった。
 昨夜の出来事が嘘ではないと股の間からひしひしと伝わって来る。
 海藤信哉の本性とこれまで自分が受けていた辱めを知った。晒した痴態は全て記録され映像として残っている。これまでの付き合いが音をたてて崩れていった。海藤も実のような……いや、実以上に紳士だと信じていた。女をいやらしい目で見ない人間だと。
 その結果が自分の身体を弄んでいた下種だ。
 下種はさらなる下種を呼んだ。
 阿久津一郎。富と権力を我が物とし、女を慰み者にする最も毛嫌いする男だ。彼から受けた陵辱は身体を嬲り快楽の果てに沈めた。海藤によって受けた調教が身体を性に浸らせたのだ。
 ベッドの中、葵は自分の情けなさに舌を噛もうとした。だが、口は動かなかった。海藤による催眠療法が魔法のように身体を支配している。彼らの横行に対処する術は何もかも封じられていた。
 その海藤に送られて戻ってきたのは朝の五時。朝陽が昇る頃だ。散々、阿久津によって陵辱された身体は自由がなく歩く事すらままならなかった。股間は裂傷こそないものの長時間のセックスで麻痺と痙攣を繰り返し起こしている。阿久津の巨根で開けられたヴァギナはまだ閉じきっていない。クリトリスも収縮しておらずまだ勃起している。
 性の刺激がこれほど強烈なものかと身に染みる。
「どうしよう……」
 助けを求めることもできない。夜の出来事をすべて覚えているというのになにもできない。なにより、実に対しての罪が大きく圧し掛かってくる。なにも頭に浮かばない。対抗手段を考える事さえ封じられているようだった。
「ほんとうにできたら……私、どうすればいいのよ……」
 何度も呟くように言葉を吐く。次第に涙が零れたが我慢しなかった。ベッドのシーツを濡らす。
 ひとしきり泣くと下半身が疼いていることに気づく。あれだけ長いセックスをした身体はまだ足りないのかヒクついている。阿久津の愛撫が残留しているようだった。その感覚に手を伸ばそうとした瞬間、携帯電話が鳴った。
 誰からかと見ると鏑木達哉の名前があった。葵は電話を切る。するとまた鳴る。緊急の用事でもでたくなかった。もしかしたら鏑木もあの2人とグルなのかもしれない。信頼していた叔父とも会いたくない。
 何度もやり取りを繰り返すとメールに切り替えてきた。
『今日はゆっくり休んでいいから、明日は出勤してくれ。三島さんの件で話をしたい』
 三島という文字に歯を噛む。弱みを握られている自分に彼女の力になれる見込みはない。何もできない自分を恥じることしかできなかった。
 メールに返信はしない。電源を切ると一人きりの家で裸になる。寝室に置いている鏡に向っていくと我が身を写す。
 陵辱を受けた身体は思ったより美しい。散々嬲られ、男の力を刻まれたのに肌は傷1つない。それどころか昨夜までよりも扇情的に見える。大きな乳房やくびれは男を誘っているようにしか見えない。尻も同じだ。乳房と同じで丸く実った果実そのもの。性器はやはり感覚がまだ残っていた。
 葵はベッドに横になるとうつ伏せになって手を伸ばす。阿久津一郎に責めたてられた膣へ、自らの指をあてがい慰める。
 自慰などしたことがなかった。性に関しては昨今の女子高生のほうが知っているだろう。もしかしたら女子中学生の知識欲にかられた思春期の子のほうが知っている可能性もある。
 だから自分の身体を慰める方法も知らない。葵は自分の指では満足に感じることさえできなかった。
 この日、彼女はなにもせず一日を終えた。こんな日ははじめてだった。学生の頃から毎日、自分を高めようと必死にやってきた。勉学に従事し、実のためにと家事に勤しんできた。だが実が帰ってきてもなにもせず、ベッドに眠ったままだった。

 目が覚めたのは昼の2時。当然、実は出勤したあとだ。携帯電話の電源を入れるとメールの着信を確かめる。着信はなかった。鏑木のあのメールが一通だけだった。海藤も、阿久津も一切の連絡をしてきていない。
 家にいて、なにがどうなるわけでもない。葵はスーツに着替えると鏑木に電話した。いつもと変らない口調だった。彼はなにも知らないのか、ただ事務所に来なさいといってくる。葵は家を出ていく。
 外へ出る。疼いていた股はどうにか落ち着いた。腰にも痛みはない。電車に乗って事務所へいく。電車の窓から見える景色がひどく遠いものに見えた。
 事務所につくとすぐ異変に気づく。誰かが騒いでいるのだ。
「葵ちゃん! だめっ!」
 事務所のスタッフたちが葵に気づくとすぐに出て行くようにと肩を押した。なにがどうなっているか分からない葵はその場に留まった。
「ど、どうしたんですか?」
「今はダメ、三島さんと――」
 スタッフがなにか言おうとした瞬間、奥から女が出てきた。三島奈美だ。そう葵は認識すると同時に彼女の目に涙が浮かんでいたことにも気づいた。口元にしわを作って堪えている。なにがあったのか聞こうとするが三島は葵を睨んだ。
「最低よ……あなたも結局、最低……」
「なにをいって」
 涙が零れる。三島は肩を震わせて睨んでくる。今にも飛び掛ってきそうな気迫と怨念が目に宿っていた。
「奈美、待って! あっ……いくわよ。ほらっ!」
 後からでてきた母親が奈美の手を引っ張る。母親も葵を睨んだがなにもいわなかった。すれ違う一瞬、肩がぶつかり「うそつき」といわれた。
 痛いほどではなかった。故意にぶつかったわけではないだろう。葵の立っている場所は狭い。通ろうとすればぶつかるのは仕方がない。しかし彼女の一言とともに全身から力が抜けていく。心臓をえぐるような言葉だった。
「なにが、あったの?」
「それが昨日、阿久津さんが来てね。示談にすることになったって……今、先生と話してるから行ったほうがいいわよ」
 スタッフは自分から説明するよりもと部屋のほうを指した。
 今、阿久津が来ている。全身が硬直したように固まる。呼吸が上手くできない。完全に彼によって征服されたかのようだった。
 それでも事務所の奥へ進むしかない。三島奈美が出てきた場所へ入ると男が3人、じろりと視線を送ってきた。叔父と阿久津親子だ。
「葵、こっちに来なさい」
 鏑木は自分の隣りを指していう。無言で彼を見るといつもとかわらない。視線を動かし阿久津親子を見ると口元を緩ませていた。葵は礼をして隣りに座る。視線の先には阿久津一郎がいた。
「三島さんの件だけどね。昨日、彼女から連絡があったんだ。やっぱり示談にしたいと」
「ええっ!?」
「事を荒立てたくないといっていてね。それで連絡をとろうとしたんだが……まぁ、彼女のほうだけでなく阿久津先生のほうも応じるとのことだ。だから事を進めておいた」
 阿久津を見る。ほれ見たことかと言っているような目だ。昨日、いや隣りにいる阿久津正志と会ったあと彼が動いたのは明白だ。どういった条件を突きつけたのか理由はわからないが確実に自分達の思い通りにした。
「迷惑をかけてすまなかったね」
「いや、こちらこそ面倒をおかけして申しわけない」
 鏑木は笑っている。陵辱した男に笑っている。隣りでは女を無理やり押し倒すような男もいる。悔しくてたまらなかった。
「こいつには後できつく言っておくよ。もう女に手を出すなとね」
「はは……」
 息子の正志は反省の色など一切ない。おそらく彼はまた同じ事を繰り返すだろう。
「ところでな。葵君のことだが」
 阿久津がじろっと見てくる。
「どうだろう。わしのところに預けてみないか?」
 声がでなかった。突然の話に意識が追いつかない。阿久津の顔があの夜を思い出させる。
「というと?」
「前に雇っていた弁護士からそろそろ新しい弁護士に変えようと思ってな。出来の良い弁護士を捜しているんだ。沢木葵君は特に優秀なんだと聞いたわけだ」
「そうですか。ですが彼女はまだ……」
 弁護士としてのキャリアはまだ新米そのもの。専属など務まるわけはない。そんなことは阿久津自身がよく知っているはず。鏑木は視線を葵へと送った。
「阿久津先生の専属など、私には務まりませんよ」
 言葉を交わすことすらいやだった。
「なぁに仕事は覚えていけばいい。いきなり1人でというわけもないしな。最初は他の弁護士と協力してくれればいい。どうだ、鏑木、彼女を一人前にしたいならわしの所に預けるのが早いぞ」
「……葵に任せるよ、どうする?」
 彼の判断としては了承できるものではない。
 しばらく考えようとするが阿久津の目が答えを押し付けてくる。拒否することはできない。
「わかりました。その……阿久津先生のところで頑張ります」
 観念するしかない。葵は目をそらしていった。他の選択肢などないのだ。
「そうか、よかったよ。断られるかと思ってひやっとしたぞ」
 心にもないことを言って笑う。
「葵くんがそういうなら。まぁ修行だと思っていくといい。阿久津先生の周りには優秀な人材が揃っているしね」
 助けはない。阿久津一郎によって職場まで変えられる。流されていく自分の感情にどうすることもできなかった。
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2012-12-18 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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之ち(ユキチ)

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