FC2ブログ

第16話 仕組まれた結婚記念日

 いいことがあれば、悪い事もある。
 阿久津一郎の実家から戻って数日、新婚旅行の計画を立てた。どこへ行くかと悩んで出てきたのは箱根だ。あ普通だとは思うけど近いし、やはり体を休めるには最適だと思った。葵はせっかくの夏なんだからと沖縄はどうかといった。
 どちらも素晴らしい魅力に溢れる土地に変わりない。三日間の旅行に浸るには申し分ない。
 候補が二つ出揃った。旅行会社と相談すると箱根はいっぱいで沖縄は空いているらしい。箱根は海外からの旅行者が日本を満喫するため選んでいるのだと説明された。
 それに比べるとシーズン前の沖縄は空きが多く、まだ安い。僕らは沖縄への旅行にして契約した。
 翌日のこと阿久津一郎から電話が掛かってきた。仕事の時間は過ぎていた。
 受話器に耳を当てている葵は徐々に肩の位置を下げていく。なにか良くないことがあったのは明白だ。電話は葵の言葉など求めていなかった。一方的に用件をいわれて切られたようだ。
 その用件とは新婚旅行の日とまったく同じ日程で急用が入ったとのこと。どうしても葵がいなければならないらしい。重大な案件のためなのだと。
 僕らの新婚旅行は今年も叶わなかった。
 僕は三嶋椿のもとを訪れた。このことを話したかったのだ。
「それで、沖縄へは行くのかい?」
 水嶋椿は他人事のようにいった。事実、他人事なんだが興味ももっていない声だった。
「契約はしましたからね。キャンセルするには半分払う必要があるんです」
「それは困ったな」
 今日はまだ催眠療法を受けていない。その前に話しておきたかった。心の中をすっきりさせたかったんだ。
「さすがにお沖縄となると高いだろ。ホテル代だって含まれているわけだし……そうだ、海藤君を連れて行ってはどうかな。彼は見た目以上に暇だしね」
「海藤、ですか?」
「だって勿体無いじゃないか。奥さんと旅行はできない。けど旅行の予約はした。キャンセルすると半額払うことになる。なら行くしかないだろう」
「でも……男2人で?」
「ああ。なにか変かい? キミらは親友だろ?」
 いっさいおかしなことはないと言いたげな顔だった。2人で旅行するほど仲がいいのは海藤ぐらいしかさっとは出てこない。かといって男2人で沖縄なんて……それも結婚記念日に……ありえないだろ。
「それとも、ボクと行くかい?」
 答えに詰まっているとそんなことをいう。
「からかわないで下さいよ。これでもけっこうへこんでるんです」
「すまない。でもお金を払って予約をキャンセルするなら行ったほうがいいよ。家にいても奥さんは仕事で忙しいだろうしね。だから阿久津先生は結婚記念日と知りつつ電話をかけてきたんだ」
 阿久津一郎は僕らの結婚記念日を知っているはずだ。それでも葵を必要とした。つまり本当に重大な仕事なんだ。となると家に帰ってきても一緒にいられるとは思えない。
 それに3日も家にいてなにをするのか。
「海藤に連絡してみますよ。それで暇だっていうなら一緒にいきます」
「そうしてみるといい。彼も旅行はほとんどしたことがないと言っていたから案外喜んでくれるかもしれないよ」
 ひとしきり話をした後、催眠療法が始まった。
 あの、ゆっくりとした波の中で時間が止まったような感覚が全身を支配する。
 頭の中でこの数日の出来事が目まぐるしく再生された。
 葵との生活、阿久津一郎の実家での出来事、あの少年に見せ付けられた性器、新婚旅行のキャンセル。色んな事が一度に起きた。ここのところ、やけに多い。
 水嶋椿の診療所を後にするころ、心は平穏そのものとなっていた。心につっかえていたものがすべて流れたようで気分はさわやか。すぐに海藤と会う約束をして家に帰る事にした。
関連記事

tag : NTR催眠療法プログラム

2012-12-19 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
ジャンル問わず面白ければ好き。
大阪在住・12/28生
相互リンク募集中です

カウンター

おすすめ





読んでるもの等











超昂神騎エクシール