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第18話 ひとり……

 レンタカーを返して戻ってくると家の中の惨状に膝をおった。リビングにはピザや食い散らかした飯の残骸が散乱している。寝室には性の名残が染み付いていた。
 実が帰ってくるまであと1日ある。この惨状をどうにかしなければと葵は動き出した。窓を開いて空気を入れ替える。ベッドからシーツを剥ぎ取りすべて洗濯。新品を購入しようかと思ったが不自然だと思われるのでやめた。最後にゴミを纏めると一段落した。
 陵辱のあとはおそらく消えるだろう。
 掃除が終わるとトイレに篭もり妊娠検査機を使用する。プラスチックの筒状機器が判定をするまであと数分。リビングのテーブルで1人じっと眺める。
 赤い線がでれば陽性、つまり妊娠している。でなければ陰性で変化なし。
 見つめる判定部分はまるで閻魔に天国と地獄への道先を委ねるよう。
 混濁する意識のなか、海藤信哉によって狂わされた自分を罵る。彼の正体を見破れていればこうならなかった。阿久津一郎も海藤がいたからこそ、手を出す事ができたのだ。
 しかし海藤を恨む事で己を正当化することもできない。
 見知らぬ男とのセックスになにも感じなかったわけではない。たとえ身体がそうさせられていてもあの夜、激情に絆されたのは自分。夫以外の男に身を委ねた。
 しかも身体は満足せず疼いていた。その結果、選んだのは阿久津一郎で夫ではなかった。もっとも嫌悪するべき存在に慰めてくれといったのは他でもない、自分なのだ。
 事はそれで終わらない。子供相手に一晩中セックスをし続けた。催眠状態が解けたあともかわらない。プライドもなにもかも捨てて、性を求めたのは自分。

 ……でも、それは、すべて、催眠という魔手で操られたから……馬鹿みたい、わたし、ここまでしておいて自分を正当化しようとしてる……。

 妊娠検査機に赤い線が浮かびあがった。
 涙が零れ落ちた。これでお腹の中に新しい生命が宿っているのだと目に見えてわかったのだ。時期からして阿久津一郎の子供に違いない。
 実とは一度も生でしていないのだから候補にもならない。
 その実は今、沖縄にいる。あの海藤と一緒にだ。何も知らずのうのうとしている。
 彼に強い意志があればと考えたが、誰よりも彼を知っている葵には首を振るしかなかった。もし、陵辱されたことを話せたとしても彼は助けになってくれるだろうか。守ってくれただろうか。
 いや、無理だ。
 そんな力も意思もない。たとえ庇おうとしても非力で喚くだけだ。昔から頼りにならない男だった。そもそも彼に対しての感情は、付いていて上げなくちゃというところからはじまったもの。生まれてからずっと一緒にいたものだからそれが当然のように過ごしてきた。いたって普通の実を見ていると手を差し伸べてやるのが当然なのだと。

 ……わたし、最低だわ。なんてこと考えて……実は悪くない。彼は……彼は……。

 思い出が甦ってくる。
 はじめて手を繋いだ時、キスしたとき、そのすべてのはじめてが沢木実だった……あの夜までは。
 あの夜、阿久津一郎に孕まされた時、男の獣のような情欲にはじめて出逢った。自分の子を産んで欲しいという想いを熱く滾らせた感情の昂ぶりだ。何度も何度も子宮を虜にさせようとする男の強さ。
 神秘的だった。嫌がっていた心は身体に反応し、いつしか求め、今では忘れる事が出来ない。
 下腹部を触る。その奥に生命が宿っていると思うと、自分がいったい誰のためにいるのか分かった気がした。
 母になるということ、愛がもろいものだと知ること、そして同情という感情が沸きたつ。
「答えは出てるのよね。こんなのに頼る必要なんて最初からなかったじゃない。ふふっ、馬鹿みたいよ……いえ、ほんとうに馬鹿なんだわ」
 天井を見上げると完全に意思を固めた。
 夫はこの事態になにも気づいていない。おそらく海藤と阿久津もこの現状をバラすことはないだろう。なら取る行動はひとつ。みんなが幸せになれる方法を選択するしかない。
 そうすることでしか、この生活を守れないのだから。
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tag : NTR催眠療法プログラム

2012-12-20 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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之ち

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之ち(ユキチ)

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