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第21話 妊娠報告

「めでたくご懐妊か、おめでとう」
「ありがとうございます。椿先生」
 ここ、水嶋椿のもとに通ってはや一ヶ月半。悩みもあったが今日はこれまでにないほど気分は快調だ。というのも先日、葵が妊娠している事がはっきりしたのだ。
「これで沢木君も父親か……」
「そうですね。まだ、実感とかないんですけどね」
 まだ妊娠しているとわかっただけだ。自分には父親になるという実感など皆無である。
「すぐに父親らしくなるよ」
 椿さんも今日は随分と気分がいいらしい。なにかあったのだろうか。彼女はカルテになにかペンを走らせながらいう。
「催眠療法だけど実感はあるかい。ここへ来てからの変りようだ。自分で認識できる分でいい」
「ええっと……そうですね。肩の力は抜けたんじゃないでしょうか。あといろいろと悩みが晴れた、とでもいえばいいのかな」
「悩みというとあのブログの一件かい? 妻の浮気の」
「そうです。なんていうか想像の世界ならそういうのもありなのかなって……ほらっ、言ってくれたでしょ。割り切って愉しめばいいって」
「言ったよ。でもそれが自分の妻だったとしたら、どうだい?」
 あのブログに出てくる人妻Aという女性。彼女は夫がいる身でありながら別の男に調教され、ご主人様に仕えている。ブログの更新は続いており、最近では輪姦パーティーなども行なわれているらしい。僕には想像もつかない性の奴隷だ。
「まぁたしかに興奮しますが……ありえないでしょ」
「ボクには沢木君は人妻Aを自分の妻に見立てて自慰行為に及んでいたように思えたけど?」
 否定できなかった。なにせその通りの事を僕は何度かしたのだ。あの写真に写る肢体はどれも魅力的な女性のラインを描いている。特に乳房の形は葵に似ていた。ただそれだけのことだが重ね合わせると興奮したのは確かだ。
「実はね、沢木君の治療はそろそろ終わりにしてもいい頃だと思っていたんだ。元々、重度のストレスを抱えているわけでもないし、ボクも次の段階へ移りたい」
 突然の話に頷くしかなかった。
「つまりデータは取れたんですか?」
「そういうことだ。でね、お礼といってはなんだけど沢木君の深層意識にある願いを見せてあげようと思う」
「深層意識……」
「そうだ。沢木君の普段は考えもしない部分。隠している本性、本能だ」
「そんなこと、できるんですか?」
 自身満々に「ボクを誰だと思っているんだい?」といった。白衣が揺れて僕に近付いてくる。椅子の背もたれががくっと倒れた。
「これはボクからのサービスだ。子供ができる沢木君へのね」
 再びいつもの状態へなる。ゆりかごのような椅子に身体を預けると、だんだんと眠りに近付いていく。

 ――吸って、はいて、吸って、吐いて……

 彼女の声が響く。さっきまで普通に話していたのに、目蓋が重くなって目を瞑る。だらりとなった身体に彼女の声だけが波紋を作る。

 ――暗い闇の中にキミはいる……いつもの穏やかで何もない世界だ……こころは落ちついているだろう……なにも不安はないんだよ……ぜんぶあるがままに受け入れるんだ……
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Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
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大阪在住・12/28生
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