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第四話

 二人が戻ってきた頃にはもうパーティーは静かになっていた。これからどうしようかと思う者。帰り支度を始める者もいる。しかし集まった者たちの意は伯爵の結婚相手を見るということにあり皆一様に待つばかりであった。
「皆様方、大変お待たせいたしました。今宵、皆様が最も気になっていた私の結婚相手ではありますが…大変恐縮ではありますが私はまだその彼女となんら関係を持ってはいないのです」
 呆気に取られる。それはアーロンも同じである。すでに決まっておりその彼女を見せるという面目ではなかっただろうか。それとも好機の目で集めるのが目的であったのか。
「ですが私の心の先に彼女はしかといるのです。そう、この中に!」
 両手を広げ会場全体を指すように目が光る。
「私は一人の女性と出会い、胸の疼きを止められなかった。停めようにもこの胸は早鐘の様に鳴り押さえがつかなくなるばかりだった」
 伯爵が中心を歩く。確かに一つの場所を目指して。会場にいる人々は彼が近づいてくるとまるで波のように避けていく。
「私はこれまで恋をした事はなかった。してもこの身体だ。病はいっこうに直らず年をとっても若い姿のまま…陽の下ではまともに暮らすどころか歩くことさえままならない。一時は闇の伯爵などという噂もあったくらいだ。でも!それでもだ!この胸の鼓動に嘘はつけない。私は恋をしたのだ!」
 徐々に近づく。
 避けていく人々の視線はある一人の少女に向けられた。
「どうか、どうかこの恋心を貴方の矢で打ち抜いては下さりませんか、エルザ」
 伯爵はあろう事か自ら少女の前で膝をつき手を差し出した。これに一番驚いたのはアーロンだろう。娘の返事はいらないのではないのか。結婚相手は別にいるのではなかったのかと。まさかこのような場面で告げるなどと!
 周囲は騒然としている。
 手を差し出されたエルザは驚きのあまり広がった口元を両手で押さえて伯爵の瞳を見る。まさに今、自分ひとりに向けられるその瞳に彼女は歓喜した。恋をしたのは貴方だけではないと。自然と口から出たのは一言。
「はい」
 差し出された手にはもう一つ小さな手が重なり会場には大拍手が巻き起こった。
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Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
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大阪在住・12/28生
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