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第五話

 二人が手を取り合ってから結婚までの時間はあっという間であった。パーティーに集まっていた人達は皆で二人を祝福しすぐに式をと急かしたのだ。正式な式を挙げるのは後にして形だけでもと神父役をかってでた一人の男の下、二人は互いを夫婦と認めた。その光景は本当に幸せそうな伯爵の笑顔を中心に執り行われた。
 唯一人、その笑顔に恐れを抱くものもいた。新婦の父、アーロンである。彼だけは伯爵のことを完全に信用してはいなかった。
 そんな父親と対照的にエルザは伯爵とのこれからを考えるだけで胸がはちきれそうになっている。夜、突然現れた伯爵に心を射止められてから数日、まさか彼も自分と同じように好意を寄せてくれていたなんてどれほど嬉しいことだろうか。彼女はすぐにでも伯爵と共に過ごしたと願っていた。
 パーティーは二人を祝いながらお開きとなった。後日、今度はアーロンの屋敷があるロンドンで結婚式をするということで再会の約束をして皆一往にして帰路に着いた。
 約束した手前アーロンは結婚に反対できなかった。彼らがロンドンに戻ると会社は社員全員が総出で船から金を引き上げているところだった。ログナー伯爵から送られた金は神々しく光り輝く山のような金塊だった。汚れはない。その塊全てをログナー伯爵はアーロンへ送ったのだ。これがあれば会社の負債など簡単に無くせるだろう。それどころか船を修理し新たにもう一隻の船を作ることも可能だ。
 どうすればこれほどの金を手に入れられるのか。伯爵の資産については誰も知らない。パーティーに出席していた者達でさえも彼の持つ莫大な資金は謎である。だからして噂好きな者達は様々な仮説を立てた。一つは麻薬である。広大な土地の一角に誰も足を踏み入れることの出来ない場所を作りアヘンなどを作っているのではないか。または先祖の財産ではないかという説もある。彼の家柄は遥か昔、記録にあるもっとも古い人物もまた巨万の富を得ていたという。それが使っても使い切れないほどあり持て余しているのではないかなど。憶測は留まることはない。なかには悪魔と契約して富を得た。そのせいであんな身体になったのだという人もいた。アーロンは悪魔と契約したという話は強ち嘘ではないと思った。彼から何かを得た者の何人かはすばらしい暮らし、栄光を手に入れる。それと同時に失うのだ。事実パーティーの始まる前に一人の男がこの世から消えていた。これは唯の偶然なのだろうか。次は自分の番なのではないか。
 なにより愛情を掛けて育てた自分の娘は伯爵のところへ嫁ぐことになった。
 ロンドンに太陽の光が注ぐ中、船がやってきた。どんよりとした黒い船だ。ゆっくりと航路を取り進んできた。その船を受け入れる港ではまるでパレードでも始まるようだった。結婚式の会場までは港から近い。二人は式が終わった後すぐに船に乗りそのままトランシルヴァニアの城まで戻ることになった。
 陸に上がるところから式の最後まで伯爵の傍には一人の男が日傘を差して付き添っていた。顎に髭の生えたがっしりとした体格の男だった。パーティーに出席したほとんどの人がその人物をしらなかった。彼こそアーロンの知っている医者である。黒い髪を整えた人物で女性のようなログナー伯爵と並ぶとエルザを差し置いて二人が主役にも見えた。
 伯爵の身体は病の中にありいくつかの症状がある。太陽の光に当たると肌がやけどをしたように赤く焼けてしまう。それと同時に体力を消耗する。常人にはなにも影響の無い紫外線が彼の身体を焼くのだ。そのため船にも紫外線を遮断する措置が取られていた。もちろん伯爵自身にも日傘以外のものがついている。掌はもちろんのこと顔全体を薄い布で隠すようにしている。彼の素顔はエルザにしか見えなかった。
 文字通り伯爵はエルザを連れ去っていく。
 アーロンはその光景を眺めているだけだった。
船には金塊が詰まれており式の間中に金塊はアーロンの船へと詰まれていたのだ。屋敷のメイドであるリリィを残しアーロンはすぐに仕事に取り掛かった。忘れたかったのかもしれない。自分の元から連れて行くあの伯爵の姿を。
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2013-01-07 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

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