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第十四話

 再びこの地に来たのは実に二十年近くたった頃。あの夜の惨劇はこの地方では有名になっていて狂った伯爵とその妻という昔話として語られている。
 崖から落ちた私と赤い樹は湖に沈みそこからゆっくりと時間をかけて一つとなった。そのときの記憶も持っていればそれ以前の人としての記憶もある。樹がどういったものかこの数十年で身体が教えてくれた。赤い樹の栄養分は水や太陽からのものではなくもっと純粋なもの。そう生物の血である。同化してしまった私の身体は生きるために人やそれ以外の動物から血を吸っている。近代では吸血鬼と称される者達の仲間入りをしてしまったわけだ。なぜ赤い樹が私の身体と同化したのかはわからない。けれど胸には花の形をした痣があるし背中にも同じように痣ができている。そして血を欲すると赤く光るのだ。赤い樹は私と同化して生きている。永い間生きている中で血を欲する以外に得た衝動がある時折、凶悪的な暴力を振舞ってしまう。身体が人間よりも動くのだ。三メートル程度であれば助走なしに飛べるしレンガならこぼしで砕くことさえできてしまう。おそらく伯爵も赤い樹の影響をうけていたのだろう。そしてああやって暴力的になった。そうとしか思えない。
 あの夜の跡、主を失った城は寂れていった。伯爵は村人に殺されたらしい。その辺りは村人たちが全員で隠蔽していたらしく詳しく残っていなかった。イゴールの生死も定かではなかった。城にいなかったリリィは牧師を連れて戻ってきた。その後、トーマスと一緒にイギリスへと渡ったらしい。安値で売られていた私の実家を買取りそこで暮らしていたようだ。生前、彼女に会っておこうと思ったがそれはできなかった。会って何をする?何を言う?あの時無理やりにでも連れ出していてくれればと責めるのか。私は会う顔もなかった。死後、彼女たち夫妻の遺品には私の肖像画があったらしい。ダリオ氏は身体が良くならないことを悟ったのか城から持ち出して完成させたのだ。一目見たとき私は今の姿とはまったく違う幼い私の姿を思い泣いた。
 身体の変化は内側だけで終っていない。翠色の髪は変わらなかったが背が高くなって大人びた。超人のような力を持っている割には筋肉はなく細い四肢をしている。年齢はおそらく二十代後半だろう。再構築までに十年程かかったようだったから二十七才くらいだ。
 あの城で唯一片付いていないことがある。
 彼女はどこへ消えたのだろうか。
 あの夜、私の目の前から消えたイブのことは何も残っていなかった。もう死んでいるのかもしれない。けれど私はそう思えない。彼女はおそらくこちら側の者なんだと思う。あれだけ執拗に私を求めてきた彼女とは会っていない。私の目的は彼女を探すこと。無論、これだけ生きているのだ。生まれ方、中身は違っていても同じようなやつらはいる。彼らとは協力し合って生きているが誰もイブのことは観ていないと応える。
 それでも私は探しつづける。
 生きる目的なんてそれくらいしかないのだ。

 完
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2013-01-16 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

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