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第2話 ルサリィ 起動

 地球上で半世紀前の光景を残している国は数えるほどしかない。大半の国は大地に四角か円形のドーム型の巨大居住区が並んでいる。居住区は他の居住区とを結ぶコンクリートの道路で繋がっている。
 だが走るのは娯楽品と化した時代遅れの車輪つき車か輸送用トラックのみ。すべてが居住区のなかに設備として存在しているのだから外へ出る必要がない。
 世界の変貌が完了した地球上でも日本はいまだ一軒家が多く見られる土地だった。自然環境も優秀で人々の暮らしはやや閉鎖的であるが外にあった。そんな日本の大地にも人工的に造られたドーム型の居住区がある。
 太平洋を一望できる千葉の海岸に小さくも厳重に警備された一軒のドーム型居住区。
 たった1人の人間をまるで隔離するかのように建てられた居住区である。
 円形のドームのなかは生活に必要な全ての機能を備えており、住む1人の人間を教育する環境として最適であるように造られている。外との繋がりはインターネット回線によるものか、出入りするメイドのみ。
 ストリガトゥーレ社の後継者としての役目を果たすためのすべてを、このドームのなかで彼は受けてきた。
「それって……今日でお別れってこと?」
「そういうことになります。カズマさま」
 この時代では珍しい人間のメイドは深々と頭を下げた。
「ふ~ん、なんか突然だね」
「はい、わたしも少々驚いてしまって……ですが会社からの命令でございます。カズマさま、これまで私によくして頂いてありがとうございました」
「よくしてだなんて、こっちこそ。いつもしてもらってばかりだったから、ありがとうね」
 またメイドは頭を下げた。そして何度かあるセキュリティ認証扉をくぐり外へと出る。数年間、通った職場だが心残りは無いようですぐにいなくなった。彼女は背の高い木々の道を1人きり歩いていく。
「俺を1人にしてどうするつもりかな」
 1人きりになったカズマはぼやいた。
 このドーム型居住区のなかにいる居住者は彼1人である。働きにやってきていたメイドがいなくなるともう完全な孤立である。
 幼少のころからカズマはこのドーム内で生活していた。自我が芽生えた時にはすでにここに居て、いったい、いつから生活しているのか覚えていない。周りの言う事によれば1歳のころらしいが覚えているはずがない。
 家族は祖母と両親がいて健在だがここにはいない。3人とも経営する会社の仕事で忙しくわざわざ足を運んでくる事はない。それでも数回だけ会った事がある。実感のわかない両親との顔合わせだったのを覚えている。なにせいつもは映像を見て会話するぐらいなのだから実感などわくはずがない。
 カズマの世話はさっきまでいたメイドを含めて全員で4人のメイドが行なってきた。とはいえ、作業は事務的でC型アンドロイドでも変わりないのではないかと思うほどだった。だから特になにか気を回すようなこともなかった。去っていったメイドがよくしてくれたといったが、それは単純に彼がほとんど接する事がなかったからだ。
 1人きりになるとしばしの解放感を味わい部屋へ向かおうとした。カズマにはドームの外へ出ることが許されていない。このドームの中でのみ生活させられている。何度か脱走という名のゲームをしてみたが森の中にいる警備アンドロイドに見つかった。
 怒られはしなかったが問答無用で家へと帰された。
 玄関からリビングにやってくると青一面に染まった海が広がる。ドームの側面は窓となっていて、千葉の海岸から地平線まで全てをその目にすることができる。バーチャルではない、リアルな海も手が届かないのでカズマはそれほどいい景色には思えなかった。
 リビングはドームの中心となっている。どこに行くにもこの場所を通る必要がある。来るはずのない客用のソファーが対になるようにテーブルを挟んで並んでいた。どれだけ飾り立てたところで人がいなければ虚しいものではある。
 リビングには二階に続く螺旋階段があり、上った先には自室と寝室がある。
 カズマが螺旋階段を上ろうとした時、電話が鳴った。リビングの壁に備え付けられた機器が鳴ったのだ。カズマはなにも手に取る事はない。その場で「電話を繋いでくれ」といった。カズマの声を認識した通話システムが起動する。
「おはよう、カズマ。元気にしてる?」
 カズマの腕が届くぎりぎりの距離、空中にモニターが開いた。何もない空間に浮かぶ平面の電子映像がこの時代の通話システムである。
 映像にはカズマの祖母が映っていた。暗い色の茶髪としわの多い頬をした女性で名をナディア・カンデミールという。
「おはよう、ばあちゃん。どうしたのさ、メイドさん、辞めちゃったよ」
「わたしからのプレゼントがあってね、あの子には辞めてもらったのよ。まぁほかにいくらでも働き口はあるから心配しなくてもいいよ」
 カズマの生活のほとんどはこの映像に映っている祖母によるもの。どのようなメイドを派遣するのか、なにを食べるのか、すべて彼女が決めている。昔からずっとそうしてきたため、疑問に思うこともない。
「ふーん、で、プレゼントってなに?」
「もうすぐ到着すると思うわ……ほらね」
 彼女がにっこりと微笑むとドームの外から慌しい風音がした。まるで嵐の到来のようであったが、カズマはちょっと面白いと感じた。このドームのなかにいると何も不自由に思わないのだ。そして一日の大半はとくに何も起こらず終わってしまう。
「ドームの屋上に行ってみなさいな」
「いいの?」
 外へ出ることは許されていない。当然、屋上にも出てはならない。
「いいわよ」
 祖母はそういうだけだった。軽い返答に心躍らせながら向かっていく。屋上へは自室に続く螺旋階段をさらに登る必要がある。カズマは迷わずに動く。すると映像もついて動いた。これはカズマがポケットに忍ばせている小型コンソールに反応している。
 祖母の顔が映っている映像を顔の横に従えて屋上へ通じる扉を開いた。ドームの屋上はヘリの発着場所になっている。しかしこの十年でも使用回数は片方の手の指を越えていない。
「本当にヘリだ……それも本社の……」
 輸送用のヘリの腹にはストリガトゥーレ社のマークが描かれていた。人間のシルエットを象ったこのマークは地球上でもっとも有名な企業を指し示す。
「そうよ、我がストリガトゥーレ社専用輸送ヘリ。ルーマニアからそっちまで休まず直行してもらったのよ」
「いったい誰がそんな面倒な事を……」
 いくら燃料が持つといってもルーマニアから日本となると相応の時間を必要とする。会社の命令であってもそんなことをする人物は滅多にいないだろう。カズマは久し振りの風を感じつつ、ヘリに近付いていく。すると1人の白衣の女が現れた。
「フッフッフッ、それはなぁ……この私だ!」
 マントのように白衣をはためかせて登場したのはカズマのよく知る人物であった。
「スオウ博士?」
 金色の髪に右目にだけかけている眼鏡、そして口には煙草を咥えたままの女。
「そう! ストリガトゥーレ社アンドロイド製造部門主任のスオウ・ミカよ!」
 やけにパフォーマンス的な格好を取りつつ近付いてくる。モデル歩きをもっと強調したような、やたらと腰をフリフリする歩きだった。その背後ではアンドロイドと思わしき男たちがなにか巨大な物体を運び始めた。
「ミカちゃん、カズマにプレゼントの説明をしてあげて」
「了解です、社長」
 映像の中のナディアにおじぎするとカズマをまたドームのなかへ連れ込んだ。アンドロイドたちは外見こそ人間とそっくりだったがとても持てそうにない巨大な箱のようなものを担ぎこむ。
「あれ、なんです? スオウ博士のことだからアンドロイドの部品ですか?」
「いい答えだ……といいたいがちょっと違うね。あれは部品じゃないよ」
 ドームの中には使用していない部屋がいくつも存在している。アンドロイドたちはリビングに隣接する元メイド用の休憩室へと運びこんでいく。
 アンドロイドが運び込んだのはまさに棺桶で、長さは2メートルはあった。さらに鉄か、もっと硬そうな物体に見える。カズマははじめてみるものだった。
「これはね、カズマくんの成人を祝うものだ」
「俺の? ああ、そういえば今日で成人か忘れてた……」
「自分の誕生日を覚えていないか、キミは」
「その子はそういう子よ、ミカちゃん」
 ドームの中で生活していると世間が何月何日なのかどうでもよくなってしまう。日付を気にするのは大抵、正月やクリスマスといった年始年末ぐらいだった。
「そういえば12月23日だった……」自分の誕生日をようやく思い出した。
 クリスマスの時期だからもう少しだと思っていたが詳しい日など考えてもいなかった。
「今日で成人を向かえるカズマくんのために、最高のプレゼントというわけよ」
「それが……これ?」
「そう」
 アンドロイドたちが今度は部屋の壁に沿うように機材を搬入し、プレゼントと称される棺桶にチューブを取り付けていく。なにもなかった部屋が突如研究施設の再現となった。
「カズマ、これからあなたはストリガトゥーレ社の後継者として過ごす事になる。まぁ、私が元気な間は何もしなくてもいいけれど心構えは必要よ」
「後継者……」
 後継者となるためにここで生活している。生きるということは後継者になるということでもある。
「これからはカズマを狙う者も出始めるかもしれない。いいえ、これまでだって絶対安全というわけではなかったでしょう?」
「だから俺はここで暮らしてる」
「そう。これからはメイドもただ生活を支えるだけじゃダメなの。だからこそ」
 祖母ナディアは真剣な目をしていた。スオウをみると同じように真剣な表情になっていた。さっきまでのおちゃらけた感じはなかった。そして最後、アンドロイドたちが撤収していくなか、残った棺桶に目がいく。蒼い一筋の線が入っていた。
 スオウが白衣からコンソールを取り出す。拳銃のトリガーを思わせるグリップで上面には親指で操作できるボタンがついている。ボタンを押すとナディアが映る映像と同じように平面の映像が映し出される。その映像は女性の形をした図面であった。
「ルサリィ……起動」
 彼女は誰にも悟られぬように心を込めていた。
 カズマがスオウを見るが、すぐに棺桶のほうから音がして目を棺桶へ向ける。
 棺桶に亀裂が入る。上下に二分する亀裂から白煙が噴出した。部屋のなかは完全に煙でいっぱいになったがカズマは咽なかった。煙というよりはドライアイスの白煙に似ていた。
 煙に塗れた部屋の中、棺桶の蓋が開く。周囲に設置された電子機器が平面の電子映像を放つ。どの映像も1人の女性を描いており、すべて緑一色だった。
 カズマはようやく見ていたそれが棺桶ではなく、アンドロイド用の整備ポッドなのだと判断が出来た。これまで知識としてそういった物があると覚えていたが資料とはまったく別のものだったのだ。
 従来の整備ポッドならもっと質素で、家ではなく公共の設備として存在している。このように一家庭に置けるものではない。
 整備ポッドのなかから何かが生えてくる。煙の中からなんとか形を区別するとそれが人間の手だとわかる。もちろん手だけではない、腕へと続いておりさらにその先は整備ポッドから現れる。
 ゆっくりと1つずつ動作を確認するようにして彼女は立ち上がった。
 煙が晴れていく。整備ポッドから起き上がってきたのはレオタードを着た1人の美女であった。
 背はカズマより少し小さく165センチほどで体格は人間よりもひと回りほど小さい。腕や足は人間でいう脂肪が皆無で理想そのものを象っていた。腰は折れそうなほど細くカーブを描いている。なのに乳房の部分はレオタードの下からでもふくらみを確認できるほどに大きい。
 完全に煙がなくなると青い光が瞳に灯った。彼女の美しさは体格だけではない。むしろ体格など気にする必要がない個所がある。
 頭部だ。髪は金色で光の反射によってピンク色に変色する。さらさらとして先端までストレートに伸びている。
「すごい……綺麗だ……」
 人間の顔は必ずどこかゆがみがある。左右完璧に統制のとれている美顔はほぼ存在しない。さらに肌には毛穴をはじめとして汚れが必ずあるものだ。だが、彼女の顔にはいっさいない。
「おはよう、ルサリィ」
「おはようございます、スオウ博士」
 はじめて聞いた彼女の声は感情のないプログラムのような音声だった。
「紹介するわ、こちらが我がストリガトゥーレ社の次期後継者カズマ・スガイ・カンテミールさまよ」
「ど、ども……」
 どう挨拶していいかわからなかった。完璧なまでに美しい女性が、レオタードだけを着て立っていることがカズマの心臓を早鐘にさせていた。
 ルサリィはそんなカズマに視線を合わせた。彼女の瞳がカメラのレンズのように調整を繰り返した。
「ルサリィ、挨拶を」
「挨拶、了解しました。ストリガトゥーレ社製アンドロイド、形式番号S-PX-01-1型、ルサリィです。身長165センチ、重量55キロ、スリーサイズはバスト86、ウエスト54、ヒップ83、です」
 彼女の喋り方はじつにロボット然としていた。感情の起伏がなく、読上げているだけにすぎない。
「ルサリィ、あなたに重要任務を伝えるわ」
「なんなりとお申し付けください、スオウ博士」
「ここにいるカズマ・スガイ・カンテミールの護衛と生活の補助、そして性奉仕よ」
「……了解しました」
 あまりにも突然であった。あまりにもあっさりとルサリィは承認してしまった。アンドロイドは命令に忠実である。だがその命令が突拍子もないものだったのでカズマは口を大きく開けて「ええっ!?」と叫んだ。
「せ、性的って!?」間髪いれずに続けて叫ぶ。
「なぁに驚いてるのよ、カズマくん。ルサリィはアンドロイドよ。それも超特上のセクサロイド、性奉仕は彼女にとって機能の一部、知ってるでしょ?」
「いや、だから……」
 アンドロイドに関する情報は日頃より授業として受けてきた。ストリガトゥーレ社の後継者として必要な知識としてだ。そのなかにアンドロイドの主な使い道が記されていた。生活の補助、苛酷な条件下での労働、愛玩具……この三点である。
 アンドロイドは人間の暮らしを良くするためのもの。その傾向から前者二点があげられる。愛玩具とはアンドロイドが人間の姿をし始めた頃からの一部愛好家たちがはじめたものだ。人間と同じように性行為が可能なボディをもっており、男女を問わず性による奉仕を可能とする。
「カズマ、よく聞きなさい。ストリガトゥーレ社の後継者になるということは現在の地球上でもっとも偉大な権力を握るという事よ」祖母は社長の口で語りを続ける。「ストリガトゥーレ社の実権を手にすれば色んなところから狙われる。だからカズマをそのドームの中で住まわせているし、危険から遠ざけてるの」
「だからって性奉仕ってのはどうなの?」
「なにもおかしな話しじゃないの。狙われるっていうのは暴力だけとは限らない。人間はね、エッチなことに対してすごく弱いの。嘘の愛で騙されて身包み剥がされるなんてのはよくあること。とくにベッドの中ではね」
「カズマくん、童貞でしょ?」
「あっ! あったりまえでしょ!」
 ドーム内の生活で他人と触れ合うことはない。メイドは所詮メイド、プライベートな話などしたことがない。いつも事務的な会話でしかなかった。たまに外へ出ても、これまで直に会って話したことのある人間自体少ない。そんなカズマが誰かと性行為に及べるはずもない。
「じゃあ、いいじゃない。べつに童貞なんて守ったって意味ないし。それに……」ルサリィの隣りへ立つと肩にそっと手を置く。「ルサリィに魅力がないのかしら?」そっと微笑んだ。
「ルサリィ……」
 目覚めたばかりのアンドロイドに目を向ける。彼女は声同様に表情を変えずに突っ立っている。しかし存在そのものが美の集合体で直視していると恥ずかしさがこみ上げてくるほど。
 レオタードだけという姿が女らしい身体つきをさらに強調してきてカズマは目をそらしてしまった。
「カズマさまは私の身体ではご満足いただけませんか?」
「えっ!?」
「カズマさまは私から視線を逸らしました。なにか問題がおありなのでしょうか」
 ルサリィは自分の身体を確認する。乳房を抱えるようにして大きさを確認し、腰のラインや肌のチェックまでする。
 自身を確かめているルサリィだが彼女に問題などあるはずがない。あるとするなら落ち着かないカズマの心だろう。カズマはルサリィに視線を向けてもう一度彼女を見つめる。
「ルサリィは……いいの?」
「私は与えられた命令に従うだけです。現在、私にマスターはおりませんので設計者のスオウ・ミカ博士のご命令に従うようになっております。スオウさまが私に奉仕しろと命じられましたので従うまでです」
 感情のない機械的な言葉に頭を悩ませたのは彼女を作ったスオウだった。
 現代のアンドロイドは表現が豊かになっており、人格も備わっている。大半が購入者の判断で設定を変更できるようになっていて、スオウはルサリィにもある人格を作っていた。オーソドックスな介護用アンドロイドと同じで甲斐甲斐しく、主人を立てる人格だ。
「……なにか問題がありますか、スオウ博士」
 だがルサリィには人格プログラムが適用されていない。それどころか感情さえない数世代前の機械のような振る舞いだった。
「なにも問題ないわ」もし問題があればそのとき対処すればいい。「カズマくん、ルサリィの言うとおりよ。今のルサリィは主人がいないから私のいうことを全部聞いちゃうのよ」
「主人って……確か網膜スキャンでしたよね」
 個人を特定できる方法であれば手段は問わない。一般的な登録方法は網膜をスキャニングするか体液からDNAを登録するかである。
「ええ、そうよ。もしくは……遺伝子の登録ね、つまり……セックスして登録するの」
 話が戻ってしまった。どうあってもルサリィとさせるつもりらしい。
「いいかげん、観念なさい。カズマだってしたいでしょ。そういう年頃じゃない。あんたの婆ちゃんが公認なのよ。付け加えるなら両親もね。それに成人するまでアンドロイドとセックスしたことない人間なんてもう現代じゃ遅れてるのよ」
 観念という言葉とは違う。ルサリィを見ると心臓が跳ねて緊張してしまう。彼女を抱くのを嫌ではないのだ。むしろ、嬉しくて仕方がない。ただそこに、やはり、彼女が人間ではないという事実が壁になっている。
 会話の波が途切れるとスオウの持つコンソールから音が鳴った。
「どうしたの?」と問うと「次の仕事に間に合わなくなります」と男の声がした。
「カズマくん、悪いけど私そろそろ行くわ」
「えっ!?」
「仕方ないでしょ、ルサリィの起動はできたんだから、あとはDNA登録だけだし。私は必要ないから」
「そんな!」
「カズマ! しっかりしな! あんたはストリガトゥーレ社の後継者なんだよ。あたしの孫なんだ。ルサリィを弄んで犯すくらいの根性見せな!」
「婆ちゃんまで」
 スオウが部屋を出て行くとナディアは通信を切った。掴む藁さえなくなって部屋に2人きりとなった。
 無表情のまま立つルサリィは何もいわない。一分も経たないうちにヘリの去っていく音が聴こえた。本当に帰ってしまったらしい。
「カズマさま、いかがなさいますか?」
 スオウがいなくなったと判断したらしい。ようやく言葉を発した。
 ルサリィを見ると平然としていた。彼女はアンドロイドで命令によって機能する。しかしその命令を下せる者がここにはいない。カズマはこれまで受けた教育のなかで主人のいないアンドロイドが危険だと教えられたのを思い出した。
 アンドロイドの人工知能は主人の命令を実行するように出来ている。命令が第一として判断が下されるのだ。もし命令が実行できない場合、思考回路がオーバーヒートを起こし焼けることもある。そのほかにも機能不全や暴走し、事故を起こしたケースもある。
 ルサリィはスオウによって命令を受けているが彼女に明確な主人はいない。
「私はスオウ博士の命令を実行しなくてはなりません。ですがカズマさまは私とのセックスを拒んでいるご様子。やはり私では無理なのですか?」
 無理だといえば彼女はどうするだろうか。あまりいい答えは得られなかった。
 なら彼女を救うにはどうすればいいのだろうか、と考えた。いや、考えるまでもない。やはり答えはひとつしかないのだ。
「ルサリィ」
「なんでしょう、カズマさま」
「俺、はじめてだからさ……」
「性行為でしたら私も初めてです。ですが私のデータの中には性行為に関して様々な知識がインストールされております。カズマさまに喜んでいただけるはずです」
 起動したばかりの彼女は人間でいう自信に満ち溢れていた。
 ルサリィがカズマの前に立つ。彼女の乳房や腰のくびれが、もう目の前にある。眼前にしたとき気づいた。レオタードの生地が薄く出来ている。その胸の丸い先端にはピンク色の乳頭が形を作っていることに。
 そしてなにより、ルサリィの身体から放たれる甘い香りに心臓はさらに高鳴った。
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2013-01-24 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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プロフィール

之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

小説中心に活動中。
ジャンル問わず面白ければ好き。
大阪在住・12/28生
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