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第11話 イェレ 認証へ

 無言のまま車は走る。スオウが運転しているアンドロイドに指示を出す以外の声はない。破損したルサリィの肩をカズマは見て心が痛んだがしてやれる事は何もない。そんな力のない自分に歯をかんだ。
 そしてその隣り、イェレはヘッドギアで顔のほとんどが隠れてしまっている。見えている頬や顎に表情はなく、銀色の髪と溢れてくる赤い粒子が車内を照らしていた。
 車は地下へと侵入していく。四角い地下道のなかを辿っていくと本社の地下へとやってきた。スオウ・ミカの研究施設へと繋がる扉を潜り抜け、車は停車した。ルサリィを担いでイェレが出るとカズマも続いて出る。スオウも出ると車はまた地上へ向かって走り出した。
「私の研究室……ルサリィの生まれたところへいくわ。イェレ、お姉ちゃんをよろしくね」
 スオウの言葉にイェレは行動で示した。彼女に口はないのだろうかとカズマは見た。ヘッドギアの影になっているが口はついている。
 エレベーターへ乗る。押すボタンがない。行き先は指定する必要はないらしい。研究施設と地下道を繋いでいるエレベーターだった。
「ルサリィは治るんだよね」
「もちろんじゃない。でなかったら私も泣いてるわ」
「泣く?」
「私はこの子たちの母親よ。世間に出回ってるアンドロイド全員そう。だから泣くわ」
 エレベーターが止まる。開いた扉の先は廊下だった。白い壁に囲まれて白色光に照らされている。歩いていくとスライドドアがすっと動いた。部屋の中は暗かったが電子機器の放つ光で溢れていた。カズマたちの到来によって天井に明りが点く。
「これって……整備ポッド?」
 部屋の中央にはカズマの住む居住区に設置されたルサリィ用の整備ポッドと同じものがあった。
「うーん、ちょっと違うわね。これは彼女の生まれた場所よ。さぁ、イェレここへルサリィを寝させて」
 ポッドが開かれる。やはり整備ポッドと同じで天板が開く。なかは人型に空いたベッドでイェレはルサリィをはめた。まるで欠けたパーツが戻るようにポッドの中でピッタリとはまる。
「これで治るの?」
「まずはウイルスの除去が必要になるからね。そのあと破損した部位のパーツを換装。そうだわ、カズマくんはルサリィのパーツになにか注文ある?」
「えっ……とくにありませんけど」
「そうかしらぁ、ルサリィとはけっこうシテるんでしょ、セックス。だったらおっぱいの大きさとかお尻とか自分好みにしても」
「ありません! ルサリィは今のままでいいんです!」
 カズマがはっきりといった。整備ポッドが閉まる音と重なって響いた。
「恋は盲目ね」
「恋じゃ……ないですよ」
 声には力がなかった。はっきりと違うとはいえなかったのだ。スオウはそんなカズマを見て「まぁいいけど」といってイェレに傍へ来いといった。
「ルサリィの修復には約3日ほど掛かるわ。そのあいだカズマくんをここに置いておくこともできない。かといって日本に帰っても不便でしょ」
「まぁ……そうですね」
 なんとなくスオウの言いたい事は伝わって来る。彼女の隣にいるボンテージレオタードの褐色肌アンドロイド。銀髪は意思を持ったように宙を漂い赤い粒子を漂わせている。いまだヘッドギアを取らないそのアンドロイドの役目。
「ルサリィのかわりにこのイェレを預けるわ」
「やっぱり」
「そうやっぱり、よ。どの道今日のパーティでイェレを紹介するつもりだったのよ。彼女の起動に手間取ってしまって……こんな事態になっちゃったわけだけど」
 表情を隠すヘッドギアはルサリィと同型。中心に大きな瞳を模した丸い赤光がある。そこから下へ視線を動かすと胸元の大きく開いたボンテージ。腰のあたりは水着のように面積が少なくタトゥーのようでもある。とくにハイレグタイプの股間は隠すものがなにもなく尻はTバックのようになっている。
 ルサリィと違って性欲を煽るような衣装だった。
「彼女……もやっぱり認証する必要あるの?」
 股間がむずむずしていた。それは彼女のボディが魅力的なせいだ。男の求める清楚な女の理想とは違うが、淫靡で獣のように交わることを求めているような格好がそうさせた。
「認証? 必要ないわ。すでにイェレはカズマくんをマスターと認識してるもの」
「そ、そっか」
「でも」と前置きして「カズマくんがどうしたいかこの子はよく分かってるはずよ」
 イェレのヘッドギアが上へとスライドする。本来収納されるべき額にスライドしカチューシャのように変る。
 ルサリィとそっくりな顔があった。髪から溢れる赤い粒子よりももっと真紅に近い瞳が開かれる。
「イ、イェレ……」
 マスターの言葉になにも返さなかった。
 カズマはそのままイェレを見る。彼女のルサリィそっくりな顔をじっと。するとイェレが歩き出した。ハイヒールの踵が床を擦るように鳴り近付いてくる。
 ハイヒールのせいでカズマの背より高くなっている。ルサリィも同じ身長だった。アンドロイドはそのほとんどが同型タイプで顔も似ている。特別、所有者が変更をしない限り一緒だ。ルサリィとイェレも同じだろう。
 だが何か違っていた。ルサリィの持っている瞳は機械特有のクールさを含んでいるが確かな優しさをもっていた。
「こいつがカズマ……あたしの、マスターか……」
 イェレはルサリィの対極だった。上から見下ろしてくる赤色の眼光はマスターに対する礼儀を欠いている。本来は所有者が向けるべき目を彼女がしていた。
「イェレはちょっと暴力的というか反抗心が強いのよ。でも勘違いしないでね、彼女は決してカズマくんを殺そうとか傷つける気はないから」
「うるさいぞ、スオウ・ミカ」
「うるさいって、私があなたの親なのよ」
 フッと鼻で笑うと再びカズマへ向いた。
「カズマ……勃起させているな。さっきからお前の性器がいやらしい匂いを発しているぞ」
「わかるの?」
「お前のようなやつでもマスターだからな。ここで分かる」
 収納したヘッドギアを指した。
 ヘッドギアは対象の反応を窺うこともできる。介護用のシステムだ。つまりカズマがイェレを見てずっと考えていた事や反応をすべて知られていたことになる。
「シたいのか?」
 カズマはその問いに答えずスオウを見た。彼女は首を縦に振っていた。そして「ベッドは隣りの部屋にあるわよ」といった。次にポッドのなかで修復のはじまったルサリィをみて「はやく治って」と念じる。
「イェレはしたくないの?」
「あたしはマスターのいうとおりに動くだけだ。お前が決めろ」
 イェレの肌が胸に当たる。甘ったるい匂いがした。アンドロイドはどれもこんなに言い匂いがするのかと思いつつ、顎を引いた。
「イェレのいやらしい身体も知っておきたいな」
「仕方のないマスターだ。だけど見込みはある。あいつがいない間にあたしのモノにしてやる」
 唇をぺろっと舐める。ドアが開き、二人は手を繋いで外へ出た。
 1人きりになったスオウはルサリィの入ったポッドを撫でる。ウイルス除去はすでにはじまっていた。
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2013-01-24 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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之ち

Author:之ち
之ち(ユキチ)

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