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第22話 潜入

 カプセルのなかで眠りについているルサリィ。彼女を救う決断が下った後、スオウ・ミカはすぐに行動に移った。
 彼女の乗ってきたヘリに積み込まれていた就寝用カプセルが運び込まれる。ルサリィの寝ているものと同じ物である。部屋の中に担ぎ込まれるとすぐに部屋は足の踏み場をわずかに残すぐらいでいっぱいになった。
 ルサリィのカプセルと新たな二台のカプセルが太いコードで繋がれていく。
 カズマはその光景をイェレと一緒にみていた。準備が整うまでやることはなにもない。ルサリィに対しての想いが募るばかりであった。
 業用のアンドロイドたちが手を止めたのは、今年の残りが5時間を切った頃。
 部屋の中は三台の就寝用カプセルがYの字に並んでいた。三台は何本もののコードが互いの側面に装着されている。
 ルサリィの体調を映していた画面も増えていた。三台の就寝用カプセルの傍に陣取ったスオウ・ミカの眼前にディスプレイが三つ置かれている。彼女は床に尻を下ろし、ディスプレイと同じ数だけキーボードを置いていた。
「さ、用意できたわ。二人ともカプセルに入って」
 言われた通り、カプセルに入る。いつもアンドロイドが寝ているカプセルに身をおく。クッションのようなマットが背中から肩を包み込んでくれた。身動きは取れないが窮屈と感じることはない。むしろそっと抱いてくれているような心地よさがある。
 カプセルの蓋が閉まっていく。硬い蓋は真白い壁でしかない。外の光が消えていくと黒になった。
「カズマくん、聴こえる?」
 カプセルの内側にスオウ・ミカの声が語りかけてきた。マイクの類いはない。カズマはどこに向かってでもない声をあげた。
「聴こえますよ、ミカさん」
「これからカズマくんを強制的に眠らせるわ。その後、意識をルサリィへ向かわせる。イェレと合流するはずよ」
「俺はどうしたらいいんですか」
「まずルサリィを見つけてあげて。ナビゲーションはイェレに任せるけど、ルサリィを呼び起こすのはカズマくんの役目よ。いいわね」
「俺の役目か……」
「ようはルサリィを説得すればいいんだっ! ごちゃごちゃと考える必要はない」
 イェレの声だった。
「わかった。よろしくね、イェレ」
「ふんっ!」
「それじゃ、開始するわよ」
 カズマは眼を閉じた。カプセルの中に風が吹く。つんと鼻先を刺激する匂いがついていた。息をしているとその匂いにだんだん馴れていく。意識が薄れていくのが自分でもわかると、身体は指を動かす事も出来なくなった。
 なにか光が目蓋の上から降っていた。暗いカプセルのなかにいたはずなのにと、目蓋をあける。すると身体を預けていたマットがなくなった。
 身体ごとどこかに向かって落ちていく。ウォータースライダーにでも乗っているような気分だった。光の中をただひたすら落ちていく。
「どうなってんの!?」
 不思議な事に声がでる。
 落ちているのに風はなく、匂いもない。ただ身体が流れている事だけがはっきりとしている。
 地面というものがどこにもなく、周囲はすべて光そのもの。虹をオーロラのようにゆらめかせた川そのもの。その美しさにぼうっとする暇さえあった。
「なにを惚けている、バカマスターめっ」
 ぐっと手を握られた。
「イェレ!」
 いつのまにかイェレがいた。カズマと同じで光の中を落ちている。
「ここってどこなの?」
「わかりやすく言うとデータのなかさ。ルサリィのいる場所はこの先だ。ほら、あたしが案内してやる」
 イェレはデータのなかといったが自分の身体ははっきりとしている。手足の感覚もある。実体と何もかわらない。
 腕を引っ張られ、イェレに連れて行かれる。落ちているという実感が消えていく。身体が下ではなく、水平に流れているようになる。
 いつの間にか身体は立っていた。足裏には大地があった。
「ここが終わり?」
「ああ、このまままっすぐだ。あの変態博士が作った人格プログラムがお待ちかねさ」
 光が薄くなっていく。
 足裏の大地が本物の土のように色濃く変化しはじめた。緑の芝生が広がり、やがて辺りは草原へ変わった。どこまでも続く草原は春の風に包まれていた。
「どこにいるんだ……ルサリィは」
 そうカズマがいうとイェレが腕を引っ張った。顎をくいっと持ち上げる先にはお城があった。おとぎ話の絵を切り取ったような城だ。
「あそこだろう、ご丁寧なことに看板まで用意している」
『ルサリィのお城』と書かれた看板があった。
 どうやら城にいるらしい。いつものクールなルサリィからは考えもつかなかった。
 二人は草原を踏み進み、城へとやってくる。門は最初から開いていた。拒む者もなく、城の中へと入っていく。やけに広い城だったが誰もいない。まさに無人の城であった。
「あれって……玉座かな」
 赤い絨毯の敷かれた先に椅子がふたつ。黄金色の椅子だ。
「おそらく。おいっ! ルサリィ! いるんだろっ、でてこい!」
 まるで悪党を呼びつけるような叫びだった。
「出て来い! あたしとマスターが来たんだ! さっさと」
「そんなに叫ばなくても聞こえております」
 椅子の傍に彼女がいた。現実の彼女と同じ姿をしている。だが純白のドレスは城の中だと本物のドレスのように見えた。
「ルサリィ!」
「マスター、どうしてここへ」
「どうしてって、ルサリィが目を覚まさないから呼びにきたんだよ」
 ルサリィが椅子に腰を降ろした。流れのように脚を組む。彼女らしくない。
「呼びに……ですか? では、無駄ですのでお帰りください。イェレもすぐに帰って」
「あたしは帰りたいんだけどな。マスターは違うぞ」
 くいっと腰を突かれる。
「そうだ! ほらっ、帰ろう。ていうか目を覚ましてよ、ルサリィ」
 カズマのことが気に入らないのか、ルサリィはあろうことか主からそっぽ向く。
「いったいなにが……」
 ルサリィの考えている事がまったくわからない。そんなマスターの隣りではなんとなしに理解したイェレが口元を持ち上げてひっそりと笑う。
「そうかそうか、ルサリィは帰りたくないらしいな。マスター、ここにいるのも飽きた。帰ろう」
「どうしたのさ、急に」
「いやなに、あたし、疼いちゃってさ……マスター、あたしとしよっ」
 突然、腕を首に絡めてくる。しかも身体を寄せ付けてくる。カズマはルサリィからイェレへと目を向けた。彼女の企みはわからないが全身に感じるイェレの誘惑に手が勝手に動き出す。
「なんでかな、いつもより……」
「感じるんだろ。そりゃそうさ、意識だけの存在なんだからな。本気の繋がりってのがどれだけの快楽か教えてやる。このあたしがなっ」
 唇が触れる。
 ちらりと、瞳を向ける。
 ルサリィが視線を向けていた。二人のアンドロイドの視線が交差する。
「このままだとあたしが、マスターを、食べちゃうよ」
 いつもならそんな事をいうはずはない。イェレの場合、横取りするのが当たり前。そんな彼女が見せつけるように唇を動かす。
「ま、待ちなさい!」
 ルサリィが声を上げた。イェレがさらにカズマを抱き寄せる。胸の谷間に顔が埋もれた。
「待ちなさいっていってるの!」
 さらに声のボリュームをあげるルサリィは腰をあげる。
「なんで? ルサリィはこのお城に引きこもっているんだろ。あたしと、このマスターが外で何をしようと関係ないじゃないか」
「ぅぅ……」
 張り上げた声も弱くなる。
「やはりな……」
 イェレが小声でそう呟くと、耳元に息を吹きかけるように話し掛けてきた。
(ルサリィの引きこもってる理由がわかったぞ)
「ほんとにっ!」
(バカ、静かにしろ。いいか、あの女は意固地になってる。嫉妬さ。あたしがやってきて自分の立場を奪われそうになって気を惹こうとしてるだけだ)
 視線をルサリィにあわせる。彼女はいつもと同じで冷静のように見えたが、椅子から腰を持ち上げている。無視できる事ではないらしい。
(つまり?)
(ここでイチャイチャして見せ付ければ、確実に目を覚ます)
 本当にそんな簡単にいくだろうか。
 ルサリィは再び腰を椅子におろすが、首は真正面を向いている。興味はあると断定できる。
(わかったよ。イェレの作戦にのる。ルサリィが戻ってくるならなんでもいいや)
 こうして、ルサリィの城で、ルサリィの眼前で、二人は舌を絡めた。
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2013-02-07 : 小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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